「グローバリズム その先の悲劇に備えよ」中野剛志氏

公開日: 更新日:

 TPP反対の論陣を張った評論家がグローバル化の終焉を言い当てた思想家・柴山桂太氏と対談。2人は5年前にも「グローバル恐慌の真相」(集英社)で対談しているが、そのときの見立て通りにグローバル化は行き詰まり、トランプ米大統領のようなハチャメチャな人物まで出てきてしまった。

 ところが想定外だったのは、いまだ世の中がグローバル化に幻想を抱いていること。ならば、「その先」の議論を急がなければならない、というのが本書の目的である。

「反グローバルの議論はトランプのせいで歪んでしまいました。実は、トランプを上品にしたのがオバマ前大統領なのです。オバマも当初はNAFTA(北米自由貿易協定)の見直しや労働者の権利を主張していました。ところが、それを実行せず、逆にTPP推進に回ってしまった。労働者は失望し、その結果、もっと過激なトランプが出てくる事態となったのです。それなのに、日本のエリート層はオバマは理性的でトランプは危険と言う。そんな単純な構図ではありません」

 日本では「保護主義イコール悪」のように語られるが、「戦後の自由貿易体制が日本の繁栄を築いた」というのは誤解だという。

「戦後の日本は貿易立国でも何でもなく、むしろ一貫して内需依存型です。保護主義にはいろんなバリエーションがあり、関税を上げることだけが保護主義ではありません。貿易を自由化するなら、それで割を食う人たちを守るために政府を大きくすべきです。実際、戦後、今よりマイルドな自由貿易がうまくいっていたときは、福祉国家とセットでした。ところがグローバル化推進論者は、『政府を小さくしろ』と言う。その組み合わせはおかしい」

 弱肉強食の新自由主義を理想とする者は、上位1%が富を独占するために民主主義に制限をかけたがり、その手段としてグローバル化は都合がよかった。しかし、もう限界だ。

 では、「その先の悲劇」にどう備えたらいいのか? 本の前書きのこの文章が印象的だ。

〈我々が生きている今の世界は、後世の歴史の教科書に「時代の転換期」として書かれる。もはや、周回遅れの思想にしがみついている、役立たずのエリートたちなどを頼っても、仕方ありません。我々一人一人が、これまでの通俗観念を疑い、現実を直視し、知識を洗い直した上で、自らの世界観の座標軸を新たに設定し直さなければならないのです〉

 著者は、「安易に処方箋を求めるな」と厳しい。

「事態は複雑で深刻です。まずは正確に現状分析すること。グローバル化はなぜマズいのか、どういうことが起きるのかを正確に分析できれば、少なくともさらにグローバル化を進めようということにはならないはずです。事態はもはや、短期間では収拾できない段階にきています。ならば、これまでの自分たちの考え方が間違っていたのではないかと、考え直してみてほしい。グローバル化を進めても日本が豊かにならないとすれば、そろそろグローバル化という問題設定が間違っていると気付いてもいいんじゃないでしょうか。効かない薬を飲み続けても仕方ありません」(集英社 760円+税)

▽なかの・たけし 評論家。1971年生まれ。元京都大学大学院准教授。主な著書に「TPP亡国論」「世界を戦争に導くグローバリズム」など。

【連載】著者インタビュー

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    【広陵OB】今秋ドラフト候補が女子中学生への性犯罪容疑で逮捕…プロ、アマ球界への小さくない波紋

  2. 2

    横浜高では「100試合に1回」のプレーまで練習させてきた。たとえば…

  3. 3

    健大高崎158キロ右腕・石垣元気にスカウトはヤキモキ「無理して故障が一番怖い」

  4. 4

    中居正広氏「秘匿情報流出」への疑念と“ヤリモク飲み会”のおごり…通知書を巡りAさんと衝突か

  5. 5

    広陵・中井監督が語っていた「部員は全員家族」…今となっては“ブーメラン”な指導方針と哲学の数々

  1. 6

    前代未聞! 広陵途中辞退の根底に「甲子園至上主義」…それを助長するNHK、朝日、毎日の罪

  2. 7

    渡邊渚“初グラビア写真集”で「ひしゃげたバスト」大胆披露…評論家も思わず凝視

  3. 8

    中居正広氏は法廷バトルか、泣き寝入りか…「どちらも地獄」の“袋小路生活”と今後

  4. 9

    あいみょんもタトゥー発覚で炎上中、元欅坂46の長濱ねるも…日本人が受け入れられない理由

  5. 10

    あいみょん「タモリ倶楽部」“ラブホ特集”に登場の衝撃 飾らない本音に男性メロメロ!