1カット長回し多用の「スローシネマ」

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「スローフード」ならぬ「スローシネマ」という言葉を最近耳にする。1カットの長回しを多用し、全体の上映時間も長尺の作品のこと。「レ・ミゼラブル」「アバター」など近ごろは劇場用娯楽作でも2時間半を優に超えるのだが、理由はDVDやネット配信の普及で映画館興行の縛りが弱くなったためだ。

 しかし「スローシネマ」はいわゆる「古典的ハリウッド映画」の規範に反逆し、あえて描写を省略しないことで、陳腐化した物語作法では到達できない境地を目指すのである。

 そんな潮流の代表格がフィリピンのラヴ・ディアス監督。先のベネチア映画祭で金獅子賞を射止めた「立ち去った女」が10月14日に封切られる。

 上映時間は3時間48分。しかも全編モノクロ。とすると相当の演出力がないと持たないが、ディアスは比較的単純な復讐物語を1シーンごとにじっくりと描き、ハリウッドならけっしてやらないような粘り腰を見せつける。

 すると不思議なことに、ことさら貧相な風景ばかり選んだかのような灰色画面のマニラの夜が妖しい光を放ち、ノワール映画そのものに化身するのである。

 成功の主因はヒロイン役のチャロ・サントス・コンシオと相手役ジョン・ロイド・クルズの達者な芝居。加えてもう一つ、マニラという都会の独特の気配もあるだろう。

 エドガルド・M・レイエス「マニラ―光る爪」(めこん 1200円)は同じくマニラの貧困地帯を描く現代フィリピン文学。ディアスの先輩に当たるリノ・ブロッカ監督が映画化し、日本ではテレビ放映された。 <生井英考>

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