「生き抜くための俳句塾」北大路翼氏

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 俳句ブームが続いている。しかし、俳句の上達には「技術だけ勉強しても無駄」と一刀両断するのが、新宿・歌舞伎町を拠点とするアウトローな俳句グループ「屍派」の家元である著者。夜な夜な開かれる句会には“生きづらさ”を抱えた人々が集まり、切なさややりきれなさの感情がまじり合う型破りな俳句を詠み合っている。本書は、俳人の心構えから始まる、前代未聞の俳句教本だ。

「俳句をお勉強や大人のたしなみだと考えているヤツには、いますぐ俳句を語るのをやめてほしいね。俳句は高尚なものでも風流なものでもなく、もっと身近で過激で面白い、庶民のための遊びなんだ。季語は知っていてもいいけれど、俳句の絶好の素材となるのは怒りや悩みであることを忘れちゃいけない」

 本書では、生きざまが俳句になっている人を俳人と呼ぶ。だからこそお勉強だけでは駄目なのだ。

「17文字の俳句を短すぎるという人もいるけれど、たいていのヤツの経験では最初の5文字を埋めることもできないはず。だから、まずは遊びまくれ。遊びっていうのは役に立たないから大事なんだ。いかに無駄なことに有限の時間や金を使えるかで、人間の価値が決まるからね」

 俳人になるためには、ケチらないことも大切だという。常に吐き出し続けなければ、新しいエネルギーは入ってこないからだ。

「酒にも女にも金はどんどん使った方がいい。俳句をやりたいヤツは俳句以外にも興味を持たないと駄目。俳句だけをやっていても俳句は痩せていくだけだよ。逆に、俳句に興味を持ち続けていれば、あらゆることが俳句の栄養になるんだ」

 過激な人生訓ばかりが続くと思ったら大間違い。本書の真骨頂は、著者が俳句を作る際、脳内でどのような作業が行われているのかを示しているという点。これが非常に分かりやすく、超論理的で実践的だ。

「まずは詠みたいモノを思い浮かべる。例えば、ミカンを例にしようか。すべての発想の起点はモノであり、そこから肉付けという連想を行っていく。ただし、この連想が難しいはずだ。さっきのミカンも、ほとんどの人が1個のミカンを連想して、甘いとか酸っぱいと思い浮かべたんじゃないかな。こういう常識や思い込みは俳句の敵だよ。常識は脳を萎縮させて自由な発想を妨げるからね」

 モノが決まったら、5W1Hを用い、いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように、どうしたと発展させ、削ったり音数を合わせる作業を行っていく。これを最初の連想パターンと組み合わせると、膨大な数の句が出来上がっていくことが分かる。著者はこれを「無限分裂俳句作成法」と名付けている。

 句会に参加してみるのもいい。本書では屍派の句会のやり方も紹介。

「“桜”を“さくら”と書いて優しく表現する」などの小手先の技を使わせないよう、投句までの時間を10分で切ったり、声に出して読むことで良いリズムを体に叩き込むなど、非常にユニークだ。

 悩み別作句技法や、著者独自の視点で解説する名句25句も掲載している。

「俺は、俳句は抵抗の詩だと思っている。中高年世代のサラリーマンなんて不満ややるせなさを抱えているだろうから、すごく俳句に向いていると思う。詠みたくなったら、屍派の句会に参加してみたらいいよ」

(左右社 1600円+税)

▽きたおおじ・つばさ 1978年、神奈川県生まれ。小学5年生で種田山頭火を知り句作を開始。2011年、作家の石丸元章と出会い屍派を結成。12年、芸術公民館を現代美術家の会田誠から引き継ぎ「砂の城」と改称。句集に「天使の涎」「時の瘡蓋」、編著に「新宿歌舞伎町俳句一家『屍派』アウトロー俳句」がある。

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