「定価のない本」門井慶喜著

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 敗戦から1年後の夏。東京・神田神保町で、若いがやり手の古書店主、芳松が死んだ。倉庫の書棚からなだれ落ちた古書の山に埋もれて圧死していた。第一発見者は芳松の妻タカ。芳松の兄貴格で同業の琴岡庄治は、知らせを聞いて現場に駆けつけた。

「芳松、おまえは、本に殺されちまった……」

 しかしこの一件は、不幸な事故では終わらなかった。ほどなくタカと子どもたちが失踪。疑念を抱いて現場の倉庫を再訪した庄治は、何者かに銃剣で襲われるが、間一髪、アメリカの兵士に救われる。翌日、GHQ本部に呼び出された庄治は、ファイファー少佐なる人物から、意外なことを聞かされた。芳松はソ連のスパイだった、というのだ。では、あれは事故ではなく、事件だったのか?

 復興を遂げつつある古書店街の一件は、やがて日米文化戦争ともいうべき壮大な展開を見せる。昨年、「銀河鉄道の父」で直木賞を受賞した作家の最新作。主人公の庄治は、いわゆる古本ではなく歴史的価値のある古典籍を商う誇り高き古書店主。日本から歴史を根こそぎ奪おうとする大きな力に戦いを挑む。同業者たちもそれに呼応する。彼らの戦争はまだ終わっていなかった。

 神保町の歴史や古書業界の裏側も描かれ、本好きには興味が尽きない。次々に登場する実在の古書名や作者名から、日本文化の厚みが伝わってくる。書物への愛に満ちた長編ミステリー。

(東京創元社 1700円+税)

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