「日本の貧困女子」中村淳彦氏

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 2019年4月に上梓した「東京貧困女子。」では、奨学金という名の借金を抱えて風俗で働く女子大生や、障害年金だけで2人の子を育てるシングルマザーなど、貧困に喘ぐ東京の女性たちの悲惨な現実がルポされていた。本作はその地方バージョン。北関東を中心に、東京とは異なる貧困女子の現状と、貧困を生み出す背景が生々しくつづられている。

「地方の貧困女子を生み出しているのは、『排他的な地縁の蔓延』や『長男信仰』『男性優位社会』などが絡まりあったカオスな世界。東京の遊び好きの男性たちには“北関東は性風俗がスゴイ”というイメージが浸透しているはずですが、これも排他的な環境に男性優位社会が根強く形成されていることが理由かもしれません」

 本書には、女性の労働がセーフティーネットにならず、むしろ人間性を喪失させていく現状がルポされている。普通に生活できる仕事は公務員と信用金庫、農協ぐらい。高卒の、しかも女性は、工場や倉庫で働くしかないが最低賃金で生活は苦しい。都会と違いマイカーがなくては暮らせず、維持費が生活を圧迫する。当然ながら高卒でキャバクラや風俗に流れる比率も圧倒的に多い。たとえ結婚しても夫の給料は少なく、妻のパートは最低賃金で家計の足しにもならない。今も昔も“ギャンブル王国”の北関東では、夫のギャンブルによる家計の破綻は日常風景だという。

 夫にキャバクラ勤めを強制されるケースだけでなく、自らパパ活や不倫売春の世界に足を踏み入れ収入を得ている女性たちの姿が、決して珍しくはない現実を突きつけられる。

「日本の、とくに中流以上の中年男性には、“苦労は買ってでもするべき”という上から目線の考えが浸透している。しかし、貧しさで苦労をし成長して這い上がるというロマンはもはや過去の産物かフィクションです。今の貧困は固定化された階層であり、一度組み込まれれば抜け出すことはできません」

 パパ活で生計を立てるシングルマザーの女性は、社会から認められる安定した昼間の仕事に就くため介護の資格取得を目指していると語っている。しかし、高齢者施設の運営に関わった経験を持つ著者は、彼女の未来が容易に想像できるとつづる。資格取得後、あまりの賃金の低さと労働条件の悪さに絶望し、介護と夜の仕事のダブルワークか、夜の専業にならざるを得なくなる、と。

「普通に生活できるだけの賃金を与えない限り負の連鎖は延々と続きます。しかし今の日本では、介護職だけでなく保育や地方自治体の職員など、国や行政が主導して主に女性をターゲットとした非正規雇用を生み出し、官製貧困を深刻化させているのです」
――北関東では女性は物ですよ。物。セックスのための雌扱いです。

 シングルマザーとして夜の仕事で子供を育て、再婚して子供が巣立った現在も老後の不安から体を売って貯金をしているという43歳の女性の言葉に、日本という国への諦念がにじむ。社会のひずみは貧困という形で女性に過酷な影響を及ぼしているが、今後は世代も性別も超えて広がると著者は警告する。

「終身雇用の崩壊が始まり、貧困女性に自己責任論を説いた中高年男性にも絶望は等しくやってくるでしょう。そのとき、善し悪しはともかく性を売ることで再分配を得ることができていた女性と比べて、中高年男性には売るものが何もない。彼女たちの貧困の真実を知り他人事でないと自覚することが、絶望の未来に備える唯一の手段です」

(SBクリエイティブ 870円+税)

▽なかむら・あつひこ ノンフィクションライター。長年にわたりAVや風俗、介護にまつわる貧困問題の取材を続けている。代表作に「名前のない女たち」シリーズがあり映画化もされた。「職業としてのAV女優」「ルポ 中年童貞」「崩壊する介護現場」「女子大生風俗嬢」「熟年売春」など著書多数。

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