「私は本屋が好きでした」永江朗氏

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 2019年の日韓関係は過去最悪の状態だった。こんな時、目につくようになるのが、いわゆる「ヘイト本」だ。本屋の一角で、韓国を差別する言葉を並べ立てた本が平積みにされている光景を目にした人も多いはずだ。本書では、日本の本屋でなぜこのように醜悪な事態が起きているのか、ヘイト本が流通する背景を明らかにしている。

「ライターとして長年、全国の本屋を取材してきましたが、それ以前に私自身、子供の頃から本屋が好きでした。しかし、いつの間にか本屋をのぞくことが苦痛になってきました。その原因が、中国や韓国への憎悪をあおるヘイト本です」

 著者がヘイト本に関する取材を開始したのは15年夏。実はこの時点でヘイト本は下火になっており、“過去のブーム”としてヘイト本を取り上げようと考えていたという。ところが、17年に出版されたケント・ギルバート著「儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇」など一連の本が大ヒットを記録し、ヘイト本が売れる現象が再び湧き起こった。

「一過性では終わらず、日本の本屋に“憎悪の棚”がつくられる現象が波のように繰り返される。その根底にあるものを探りたいと思いました」

 本書では、出版社や編集者などヘイト本の作り手、そして流通に関わる出版取次や本屋などへの取材も敢行している。そこから見えてくるのは、当事者意識の欠如だ。彼ら個々に積極的な排外主義はなくても、仕事だから作り、配本し、並べて売る。その状況により怯える在日外国人の存在があっても、他人事なのだ。 著者は取材を終えた感想を、“出版界はアイヒマンだらけ”と表現している。アイヒマンとは、ユダヤ人の強制収容所移送に指揮的役割を担った旧ナチスの将校だ。

「ホロコーストに携わったのは、目の前の仕事に忠実なだけでその意味を深く考えようとはしない、至って凡庸な人々だったといわれています。ヘイト本も、似たような状況で作られて流通し、誰かを傷つけているわけです」

 ヘイト本が店頭に並ぶ背景には、他にもいくつかの要因があると本書は考察している。例えば、出版不況と本屋の人手不足だ。今、閉店が相次ぐ本屋業界では、人件費削減で正社員が学生アルバイトなどに代わっている。かつては内容のひどい本が配本されても、専門性を持つ書店員が売り場に並べないという判断ができた。しかし、今ではそれが難しい状況だと著者は指摘する。また、ヘイト本は“好んで買う読者がいるから作られる”といった側面もある。

「日本経済の先行きは暗く、少子高齢化にも歯止めがかからない。国力が低下していく中で、焦りや不安のはけ口が必要になる。そこにヘイト本の需要があります。面白いことに、最近では中国に関するヘイト本が少なくなっています。中国には経済面で完全に負けており、もはや日本の優位性を主張して優越感に浸ることが難しい。しかし、韓国にはまだ負けていないという自負があり、ヘイト本も売れるのでしょう」

 ヘイト本に嫌悪感を抱く一般消費者にできることはあるのか。本書では、本屋を選ぶことも大切だとしている。

「ヘイト本を無頓着に置いている本屋には近づかないことも抵抗になります。品揃えを見極めて、“いい本を置いている”“いい棚づくりをしている”と思える本屋を利用する。本屋の棚が変われば、ヘイト本の淘汰にもつながるはずです」

(太郎次郎社エディタス 1600円+税)

▽ながえ・あきら 1958年生まれ。ライター。90~93年「宝島」「別冊宝島」編集部に在籍。「アサヒ芸能」「週刊朝日」「週刊エコノミスト」などでも連載を持つ。「インタビュー術!」「『本が売れない』というけれど」「小さな出版社のつくり方」など著書多数。

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