巣ごもりの日々のお供に最新時代小説特集

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「わかれ縁」西條奈加著

 あっちもこっちも自粛ムード漂う昨今、外出もままならないとなれば、ここは慌てず騒がず時代小説の世界にじっくり浸ってみるのはいかが。今回は、離縁したい女、居酒屋の看板少女、怪談話の渦中に飛び込む男、大逆事件で死刑になった男、長生きして妖怪になった猫を主人公とする5者5様の時代小説をご紹介!



 主人公は、浅草の長屋に住む人妻・絵乃。売り子として働いていた錦絵屋で出会った富次郎と5年前に結婚したが、浮気が絶えない上に借金癖も直らず、高利貸からの催促に追われる毎日。雇い先の店まで高利貸が押しかけてくるようになり、クビになること3度。この状況から脱するには離縁しかないのだが、金づるの絵乃を富次郎が手放すはずがなく、命を絶とうかと思い詰めていたとき、狸穴屋という旅籠屋の手代・椋郎と出会う。狸穴屋は、離縁を得手とする公事宿。絵乃は見習として働きながら富次郎との離縁を果たすことを決意するのだが……。

「まるまるの毬」で第36回吉川英治文学新人賞を受賞した著者の最新作。手代としての経験を積みながら、次第に夫の呪縛から逃れていく一人の女の成長を描いている。

(文藝春秋 1500円+税)

「猫君」畠中恵著

 茶虎の雄猫・みかんは、あるとき飼い主のお香から、20年生きた猫は人に化けて言葉を操る妖怪「猫又」になると教えられる。みかんはあと1カ月で20年を迎えるのだが、病に伏しているお香が「先に死ぬと呪い殺したのではと怪しまれる」ので、早く逃げろというのだ。

 お香のそばから離れがたいみかんは、お香が亡くなる日まで共にいることを選ぶ。結局お香が亡くなった途端、人間から追われ、慌てて逃げ込んだのは花魁たちが行き交う吉原。加久楽という男に救われ新米の猫又となったみかんは、江戸城内の学び舎「猫宿」で修業に励み始める……。

 病弱な若旦那とあやかしが事件を解決する「しゃばけ」シリーズが人気の著者による猫又を主人公にした最新作。軽妙な語り口で、江戸を跋扈する妖怪たちの不思議な世界に誘う。 (集英社 1450円+税)

「かんばん娘」志川節子著

 14歳のなずなは、菱垣廻船の水主だった父親・左馬次が持ち船の難破で行方知れずになり、内職で生計を支えていた母親が体調を崩したことをきっかけに、神田花房町にある居酒屋「ともえ」で働くことになった。女将のお蔦が心配して声をかけてくれたのだ。かんばん娘になるべく張り切るなずなは、お蔦や板前の役に立とうとするも、慣れないことばかりの居酒屋で何かと騒動を巻き起こすのだが……。

 人情に厚い江戸の人々が集まる居酒屋「ともえ」を舞台に、家計を背負ったひとりの少女が奮闘する物語。身内のような目線から頼りがいのある女将や板場で働く人たちに守られながら、身を立てていく様子がほほ笑ましい。あんこう鍋、あさりの佃煮入りの卵焼きなどの酒の肴にもそそられて、この店ののれんをくぐりたくなる。

(KADOKAWA 1750円+税)

「祟り神」輪渡颯介著

 舞台は、浅草の一膳飯屋「古狸」。

 普通の飯屋なのだが、怖い話を探してくるか、その場所を訪れるかすると飯代がタダになるという取り決めがあった。数名の挑戦者が出たが割に合わないと感じたのか、その後そうした客は現れていない。

 かつて挑戦して怖い思いをした虎太も、二度と挑戦する気はなかったのだが、店主から行方知れずの父親捜しのためにこの取り決めを始めたこと、誰も行かなければ虎太が思いを寄せている妹のお悌が捜しに行くだろうという話を聞き、自分が行かなければと思い立つ。

 今度は、盗賊に皆殺しにされて空き家になった店に忍び込む羽目になるのだが……。

 好きな娘に好かれたい一心で、恐怖の渦中に飛び込む虎太の悪戦苦闘が読みどころ。同シリーズ「欺きの童霊」とあわせて読むのもお勧め。

(講談社 1500円+税)

「太平洋食堂」柳広司著

 紀州・新宮に生まれた大石誠之助は、明治の新しい教育制度のもとで育ち医師となった。アメリカ、カナダ、シンガポール、インドなど海外でさまざまな知見も深めたのち、大石は貧しい人から金をとらないことを方針とした新医院「ドクトル大石」を始める。

 加えてその向かいに一風変わった「太平洋食堂」なる貧民と青年のための娯楽と飲食の店を開店。日露戦争さなかの世相とは一線を画す自由な場をつくり出した。

 しかし幸徳秋水や堺利彦、森近運平らと親交を深めるなかで、次第に国家から「主義者」として監視されるようになっていく。

 大逆事件で43歳で死刑となった大石誠之助の人生をつづった歴史長編小説。弱い者に手を差し伸べ、戦争を嫌った大石がなぜ死刑に追い込まれたのか。一人の男の反骨の精神に圧倒される。

(小学館 1800円+税)

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