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「中東テロリズムは終わらない」村瀬健介著

 新型コロナウイルス禍で「戦時大統領」を自称する米トランプ大統領。しかし「本当の戦争」はそんなものじゃない。



 中東情勢は日本人にわかりづらい。重要性は理解できても、アメリカ人と違って実感が薄いからだ。著者は2015年から4年間、TBSの中東支局長を務めたニュースキャスター。本書はその取材体験記だが、1人の日本人記者が中東での戦争の実感を体で知るプロセスがそのまま描かれる。

 支局長といっても実は1人だけの支局。しかも着任早々、イスラム国による2人の日本人拘束事件に遭遇する。やがて届く殺害の知らせ。スタートから大事件に振り回された著者の奮闘記は、平和ニッポンと大きな温度差のある世界情勢の厳しさをはからずも雄弁に伝える。

 また、中東支局といっても普段の住まいはロンドン。そこから取材のたびに中東へ出発する。現地取材の拠点となるトルコは欧州とアラブ世界の結び目。シリア難民が続々と脱出し、「難民のバルカンルート」を通ってめざすのも欧州なのだ。

 また著者は同じルートを逆方向にたどる「兵器のバルカンルート」も取材する。反アサド勢力が高価なアメリカ製の兵器を手にする。それは秘密の武器供与の密輸路があるからなのだ。すさまじい暴力が飛び交い、権力の策謀が入り乱れるテロ戦争の現場。その生々しい姿が伝わる。

(KADOKAWA 1500円+税)

「ベトナム戦争と私」石川文洋著

 ベトナム戦争を取材した日本人カメラマンといえばこの人。1964年からサイゴン(現ホーチミン)に住み、南ベトナム政府軍や米軍への同行取材、さらに北ベトナムにも入国して取材した数少ない当事者だ。戦後も現在まで何度もベトナムに通い、戦争の現実と恐ろしさをいまに語り継ぐ貴重な証言者でもある。

 本書も半世紀以上前の記憶とは思えないほどくわしく体験が描かれ、まるで目に浮かぶようだ。著者には優しい軍曹が、戦場では人が変わったように残虐に捕虜を虐待する。そんな現場まで撮影できたのは、沖縄出身で貧しさを知る著者の人柄が同じように貧しい兵士たちに伝わったからだろう。

 戦場取材に向けられる批判への応答も含め、誠実な筆致には無類の説得力がある。

(朝日新聞出版 2000円+税)

「知識ゼロからの戦争史入門」祝田秀全著

 中国の世界戦略として知られる「一帯一路」。そのルーツは実は15世紀にさかのぼる。明(みん)の永楽帝の時代、宦官として皇帝に仕えた鄭和が計7回の南海遠征に出た。彼はインド、ペルシャ、アラビア半島から東アフリカにまで足を延ばし明の皇帝に貢物をする同盟国づくりに奔走したのだ。予備校の先生が書いた本書はそんな豆知識をちりばめて人類の戦争史をわかりやすく解説。

「民主政治は戦争から生まれた」「なぜ、すべての道はローマに通ずなのか」「国際赤十字の旗はどうして『赤十字』なのか」など、知っておいて損のないエピソードが満載されている。

「自粛」中の気軽な読書にもよさそうだ。

(幻冬舎 1300円+税)

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