「痛いところから見えるもの」頭木弘樹氏

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「痛いところから見えるもの」頭木弘樹氏

 本書のテーマは“痛み”。病と共に生きてきた著者自身の経験と、さまざまな文学作品の引用を交えながら、その伝え方や受け取り方を解き明かしている。

「病気やケガなどにより、誰もが何かしらの痛みを経験したことがあるはずですが、これを人に伝えることは非常に難しい。痛みは極めて主観的な経験であり、個人差があり、言語化が難しく、伝えられた側も自分の経験から推測するしかないためです。身近なのに他者と共有できない、やっかいな感覚です」

 執筆にあたっては“あったらいいのにまだない本”を目指したという。いわゆる痛みをとるための本ではなく、痛みを抱えている人と、それを受け止める側の“あいだ”にある本だ。

「痛みを抱えている人はどんな気持ちでいて、どんな状況になるのかが少しでも分かれば、痛んでいる人のそばにいる人にとっても役立つはずです」

 著者は大学3年生のときに難病である潰瘍性大腸炎を発症。重症化により闘病生活は13年にも及んだという。さらに、現在でもたびたび腸閉塞を発症し、痛みと闘う日々だ。

「痛みには“孤独”がつきまといます。例えば、腸閉塞は痛いときにジッとしていると悪化しやすいので、痛みに耐えながら無理にでも歩きます。クリスマスシーズンにそんなことをしていたとき、こんな痛みを抱えているのは世の中で自分だけかもしれないと考え、ぞっとした覚えがあります」

 そのときの孤独と絶望感を表す思いとして、カフカの日記の言葉が引用されている。

「夕べの散歩のとき、往来のちょっとした騒音も、自分に向けられたどんな視線も、ショーケースの中のどんな写真も、すべてぼくより重要なものに思われた」(「絶望名人カフカ×希望名人ゲーテ 文豪の名言対決」頭木弘樹編訳)

「つらい痛みを経験したことによって、新たな視点にたどり着くこともあります。しかし、生きていく日々ではただただつらいだけ。だから、当人以外が痛みにも意味があるとか、我慢することも大切などと言って痛みを美化することは、あまりにも残酷です」

 孤独を伴う痛みをわずかでも分かち合うことができれば、その痛みが“人と人とをつなぐ”力にもなり得ると著者。その手掛かりとして、多様な文学の言葉が引用されている。

「病気になるということは、痛みにどれだけ耐えられるかの実験を受けているようなものだ」(「エルサレム」ゴンサロ・M・タヴァレス著)

「黙つてこらへて居るのが一番苦しい。盛んにうめき、盛んに叫び、盛んに泣くと少しく痛みが減ずる」(「墨汁一滴」正岡子規著)

「痛い人のそばにいる人にとって一番大切なのは、痛みに対して一般論で対応しないことだと感じます。家族など身近な人ほど、“医師がこう言っていたからそんなに痛いはずはない”などと言ってしまいがちです。しかし、理解されないことで孤独は増します。まずは分かり切れないことを大前提として、痛い人の言葉をありのままで受け止めてあげて欲しいですね」

 痛みについて考えることで、痛み以外の人のつらさに寄り添うヒントも見えてくる本書。自業自得や不寛容がまかり通る現代に、必読の書だ。

(文藝春秋 1870円)

▽頭木弘樹(かしらぎ・ひろき) 文学紹介者。筑波大学卒業。闘病生活中にカフカの言葉が救いとなった経験から、2011年「絶望名人カフカの人生論」を編訳。以後、さまざまなジャンルの本を執筆している。著書に「絶望読書」「食べることと出すこと」「自分疲れ」など。編訳書に「カフカ断片集」、編著のアンソロジーに「絶望図書館」など多数。



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