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「武士の町大坂」藪田貫著

 コロナ対策で東京に負けじと気を吐き、夏の甲子園大会が中止でもダメトラで盛り返す(笑い)のが大阪。その元気の源は――。

 大阪といえば商人の町。軍隊でも「またも負けたか八連隊」が合言葉になるほど武張ったことには無縁。大阪出身の作家・司馬遼太郎も「町人の共和国」大阪の人口は70万弱、武士はわずか200人程度と記した。

 しかし、と異を唱える著者は日本近世史を専門とする関西大名誉教授だ。「武士の町・大坂」に注目した長年の研究をもとに、その数およそ8000人と割り出す。実は、ちまたの諸説は「侍など大阪にはいないも同然」と初めから決めつけたもの。それゆえ本書では「大阪人の歴史意識を問い直す」という。これも浪速っ子らしい反骨精神の表れだろうか。

 大阪の武士の多くはよそから赴任した町奉行や代官、大坂城代らとその関係者だった。天保2年の「大川浚え」(河川の浚渫事業)で町民にも名奉行として知られた新見正路は働きざかりの筆まめとあって詳細な日記を残した。

 季節の風物や外出時の見聞などから知れる大阪の風土。「食い倒れ」の大阪については73歳で西町奉行となった久須美祐明が「カマス干物、沢庵、汁は茄子、飯三碗」の朝食など詳細な記録を残した。ちなみにこのご仁、毎夜酒もたしなんで、75歳で妾腹に子をなした艶福家だったとか。

 (講談社 1000円+税)

「大阪の逆襲」石川智久、多賀谷克彦著

 2020五輪は延期になったが、25年予定の大阪万博は開かれるのか?「大阪の元気」はやはり商業の元気。しかしそれが本当に、万博や大阪IR(カジノを含む統合型リゾート)計画で実現するのか。本書は経済アナリストや新聞記者、学者らが集った「関西近未来研究会」によるその報告。

 たとえば一口に「関西」といっても京都、大阪、神戸の3都市はバラバラに動きたがり、25年万博への熱量もだいぶ違うらしい。そんな本音コラムも交えつつ、本書は「多様性」「持続性」「分散性」などのキーワードで大阪の「21世紀モデル」を提言する。超アナログのイメージが強い大阪が「デジタルの未来」に輝くためのかなり真面目な提言集である。 (青春出版社 900円+税)

「大阪弁 ちゃらんぽらん」田辺聖子著

 大阪で最も愛された女流作家といえばこの人。広島出身の父と岡山出身の母のもと、大阪の大きな写真館に生まれたが、これほどまでに大阪の粋をわかっていた人もなかろう。国文学を学んだ女学校を卒業後、金物問屋の事務員をしながら小説を書いてデビュー。軽妙なエッセーばかりが記憶されがちだが、実は恋愛小説や評伝、源氏物語の現代語訳など、才気あふれる仕事ぶりだった。そのすべての底辺に、商都大阪ならではの都会的なセンスがひそんでいたのが万人に愛された理由だろう。

 本書は「ああしんど」「けったいな」「しんきくさい」など大阪弁特有の表現についての初めての連載エッセーの集成。後年の「カモカのおっちゃん」に“進化”する「熊八中年」とのやりとりもおもろいが、何よりことばにまつわる昔の大阪の、情趣あふれる粋がいい。このセンスをわからんのは恥ずかしいのとちゃいますか?

 (中央公論新社 800円+税)

【連載】本で読み解くNEWSの深層

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