「同姓同名」下村敦史氏

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 江戸川乱歩賞の受賞から6年。最新作となる本作は、前代未聞のミステリーである。何しろ、登場人物が全員“同姓同名”。何と10人以上の「大山正紀」が激しく交錯する、非常に挑戦的な作品だ。

「SNS社会となり、さらに今年はコロナ禍で多くの人が強いストレスにさらされています。処罰感情の高まりや承認欲求の暴走が加速しているのではないでしょうか。実際、名字が同じだけで事件の容疑者の親族と決めつけられたり、犯人と間違われて自宅や勤め先を特定されSNSで誹謗中傷を受けるなどの問題も多発しています。まして、同姓同名ともなればどんな事態にさらされるのか想像できるはずです」

 物語の冒頭、とある廃ホテルで起きた転落事故が紹介される。警察は大山正紀さんを死なせたとして、出頭してきた大山正紀容疑者を逮捕……。数奇なドラマの始まりを突き付けられ、ページをめくる指が止まらなくなるだろう。

 そして一転、プロサッカー選手を目指す高校生の大山正紀が登場する。朝練を終えて教室に戻ると、クラスメートたちはある事件の話題で持ちきりだった。ここで唯一、大山正紀以外の名前が登場する。「愛美ちゃん殺人事件」。2週間前に発生した惨殺事件で、6歳の女の子が公衆トイレでめった刺しにされた状態で発見されたのだ。やがて、犯人が16歳であること、そして実名が「大山正紀」であることが報道により暴露され、物語が一気に動き出す。

「SNSでは今、ポジティブな内容はあまり注目されず、一方で誰かを批判すれば共感が集まるという奇妙な状態になっています。そのため、正義だと信じて批判しているのか、単に共感を集めて承認欲求を満たしたいだけなのか分かりません。しかし、そんなノリで繰り返される誹謗中傷が、された側にどれほどのダメージを与えるのか。面と向かって見知らぬ人に罵詈雑言を浴びせることは誰もが異常だと分かるのに、SNS上ではそれが無自覚に行われているのです」

 幼い少女を惨殺した凶悪犯と同姓同名。高校生の大山正紀をはじめ、多くの大山正紀たちの人生が大きく狂い始める。本作では、SNSの炎上とそこに書き込まれる誹謗中傷の嵐がリアルに描かれていく。「大山正紀死ね!」「八つ裂きにしてやりたい」「父親も吊るせ!」。SNSを利用したことのある人ならば、これらの過激な書き込みが大げさではないことが分かるだろう。

 実はここまでの話は、本作の序盤に過ぎない。事件から7年後、犯人の大山正紀が刑期を終えて釈放されたという報道がなされると、事件当初よりも過激な事態が発生する。人生を潰された大山正紀たちは「“大山正紀”同姓同名被害者の会」に集い、名誉を取り戻そうとするのだが、実は大山正紀たちはそれぞれの秘密を抱えていた。どんでん返しにつぐどんでん返しで、緻密に張り巡らされた伏線の数々は脱帽という他ない。

「同姓同名だからこそ起こる悲劇や仕掛けを磨き上げて盛り込んだ、私の勝負作と言える作品です。大山正紀たちに起きていることは、“今”を表しています。ミステリー好きはもちろんですが、SNSを使ったことがある人や社会問題に興味がある人なら、リアルに感じてもらえるはず。年齢を問わず、ぜひ多くの方に届いて欲しい作品です」

 着想から3年半という渾身のミステリー。最後の1ページまで油断してはいけない。

(幻冬舎 1600円+税)

▽しもむら・あつし 1981年、京都府生まれ。2014年「闇に香る嘘」で江戸川乱歩賞を受賞。16年、「生還者」が日本推理作家協会賞の、「黙過」が第21回大藪春彦賞の候補となるなど、数々の作品で高い評価を得ている。他にも「死は朝、羽ばたく」「真実の檻」「サハラの薔薇」など幅広いジャンルで著書多数。

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