「Au オードリー・タン」アイリス・チュウ、鄭仲嵐著

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 新型コロナ禍の台湾で、いち早くマスクマップアプリを開発し、日本でも知られるようになった台湾の若きIT大臣オードリー・タン(愛称Au)。IQ180で学歴は中卒、天才ハッカーで詩人、男性として成長したトランスジェンダー……。数々の逸話に彩られたタンの素顔を、台湾のコラムニストとジャーナリストが描いている。

 タンは2016年、35歳のときIT大臣に就任した。以来、過激な透明性をもって活動している。毎日のスケジュール、会議やインタビューの内容、訪問客との会話も公開、誰でもパスワードなしで検索できる。隠蔽体質のどこかの国の政府とは大違いだ。

 タンは「保守的な無政府主義者」と公言しつつ、政府と共に働いている。温和な風貌、アーティストの感性、知的な言動、性別は「無」。こんな人物が、政府の中枢で働くことになるまでに、どんな経緯があったのだろう。

 多くの天才児と同様、タンも生きづらい子供時代を過ごした。幼稚園は3回、小学校は9回かわった。愛と理解のある両親、心ある先生たちが、学校に行かずに独学するタン少年に新たな道を開いてくれた。小学校の1年間はドイツで過ごし、台湾とは異なる自由な学校を体験する。ドイツのリビングで交わされる両親や来客の熱い議論は、社会への目を開かせた。中学進学を前にタンは思う。

「台湾に帰って、教育を変えたい!」

 帰国したタンは、台湾インターネット界の少し年上の天才たちと出会い、ハッカー精神と技術に磨きをかけていく。タンは金儲けのためではなく、社会のために自分ができることを始めた。性別を超えて自分を解放した。

「私は自分がしたいことをする。それが男性のすることか、女性のすることか、などと考える必要はない」

 自由な魂を持った創造的な人間は、ITを介してよりよい未来に貢献できる。タンはそれを実際にやってみせた。「日本のタン」は現れるだろうか。

(文藝春秋 1400円+税)

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