「幻のアフリカ納豆を追え!」高野秀行著

公開日: 更新日:

 日本の食卓の控えめな脇役としていい味を出している納豆が、主役に躍り出た。幻の納豆を追う旅は西アフリカへ、朝鮮半島へ、さらに縄文時代へ、太古の大陸パンゲアへと、時空を超えて展開する。

 著者は早稲田大学探検部出身のノンフィクション作家。納豆の引く糸に操られるように取材を続け、前作「謎のアジア納豆」から4年を経て、アフリカ納豆が主役の本作が生まれた。

 西アフリカに「ダワダワ」という納豆らしき発酵食品があることを耳にしていた著者は、幻のアフリカ納豆探検をナイジェリアからスタート。セネガル、ブルキナファソとエリアを広げていく。

 西アフリカの納豆は基本的には大豆ではなく、パルキア豆というマメ科の樹木の種子からつくられる。ナイジェリアのダワダワは、発酵したパルキア豆を半分以上潰し、せんべいのように平たくしてから乾燥させて保存することが多い。セネガルの納豆はなんと「ネテトウ」と呼ばれ、豆を完全に潰してペースト状にしたものをオクラのような形にして売っている。

 食べ方もいろいろで、すり潰したオクラを混ぜてさらにネバネバにしてご飯にかけたり、ダシをとったり、うま味調味料として料理の味つけに使ったりする。調べていくうちに、ハイビスカス納豆やバオバブ納豆にも出くわした。おなじみの納豆とそっくりだったり、少し違っていたり。しかし、どれもうまい。その多様性と食生活への浸透ぶりに、「世界最大の納豆地帯は西アフリカにある」と断言するに至った。

 アジア、アフリカを股にかけた納豆体験は、発酵食品をめぐる思索を深め、独自の仮説を生み、ツルマメ縄文納豆づくりの実験まで始めてしまう。硬くて食べにくいけど、栄養のある野生の豆や種子をなんとかしておいしく食べたいというホモサピエンスの知恵と情熱が納豆を生んだ、という壮大な仮説の前に、「納豆は日本固有のもの」といったちっぽけな思い込みは吹き飛んでしまう。

(新潮社 1900円+税)

【連載】ノンフィクションが面白い

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    3年連続MVP大谷翔平は来季も打者に軸足…ドジャースが“投手大谷”を制限せざるを得ない複雑事情

  2. 2

    自民党・麻生副総裁が高市経済政策に「異論」で波紋…“財政省の守護神”が政権の時限爆弾になる恐れ

  3. 3

    立花孝志容疑者を"担ぎ出した"とやり玉に…中田敦彦、ホリエモン、太田光のスタンスと逃げ腰に批判殺到

  4. 4

    最後はホテル勤務…事故死の奥大介さん“辛酸”舐めた引退後

  5. 5

    片山さつき財務相“苦しい”言い訳再び…「把握」しながら「失念」などありえない

  1. 6

    ドジャースからWBC侍J入りは「打者・大谷翔平」のみか…山本由伸は「慎重に検討」、朗希は“余裕なし”

  2. 7

    名古屋主婦殺人事件「最大のナゾ」 26年間に5000人も聴取…なぜ愛知県警は容疑者の女を疑わなかったのか

  3. 8

    阪神異例人事「和田元監督がヘッド就任」の舞台裏…藤川監督はコーチ陣に不満を募らせていた

  4. 9

    高市内閣支持率8割に立憲民主党は打つ手なし…いま解散されたら木っ端みじん

  5. 10

    《もう一度警察に行くしかないのか》若林志穂さん怒り収まらず長渕剛に宣戦布告も識者は“時間の壁”を指摘