「ジジイの片づけ」沢野ひとし氏

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 新型コロナウイルスの感染で家で過ごすことが増え、「ちょっと片づけでもするか」と重い腰を上げた人も多いのではないか。本書は、御年75歳の著者が片づけの意外な効用や、片づけにまつわるエピソードをユーモアたっぷりにつづったエッセーだ。

 現在はモノに縛られない生活をしている著者だが、若い頃は部屋をモノであふれさせることに喜びを感じていたという。しかし、そんな当時から片づけだけはしていた。

「片づけの原点は、10代の頃からやっている山登りですね。山登りは自然相手のスポーツなので、時には死と隣り合わせ。冬にうっかり手袋や帽子をなくしたら命取りになりますから、荷物の整理整頓はすごく大事なんですよ。ですから、山ではしょっちゅう片づけをしてました。きっとそうした習慣が自然と身に付いたんじゃないかな。今になって思うのは、この心がけは実はジジイを輝かせる一筋の光だということ。ジジイこそ片づけですよ」

 片づけの効用は、何をおいても心と体がすっきりすることだ。モノを捨てるときの寂しさは一時あっても、やがて訪れる爽快さにはかなわない。おまけに己のどんよりとした雰囲気も一掃され、若々しくいられることウケアイなのだ。

「身の回りを小奇麗にしていると、やっぱり気分は違いますね。新鮮な気持ちになるし、不思議と新たに生きる勇気も蘇ってくるんです。逆に不要なモノに囲まれてたら、前へ動こうって気になれない。洋服やシューズを新調しなきゃ、“古い人”になるのと同じですよ。やっぱり、“今”を生きたいよね。とにかく、年を取ると何となく不調が出てきたり、ひがみやすくなったりするんです。でも、お酒や薬に頼ったらダメ。部屋を片づければいいんです」

 将来の漠然とした不安には「窓ガラスを磨く」、長く元気で生きるための第一歩は「引き出しの整理」など、体験談を交えながら効果のほどを紹介。さらに、片づけを続けるコツ、お勧めの片づけ方法も指南する。

「僕は毎朝5時に起きるんですが、朝の10分間の片づけを日課にしてるんです。名付けて『朝10分の捜査』。5分じゃ足りないし、10分以上だとしんどくなって続かない。10分だけ、テーブルの上の文具や、放置したままの新聞などを『元あった場所に戻す』んです。これが片づけの基本中の基本。朝は判断力が高まっているし、ストレッチも兼ねているから一石二鳥なんですよ。働いている人なら、帰宅後に10分片づけをしてもいいと思いますよ。そして月に1度くらいは、本棚やクローゼットなど手つかずのエリアにも立ち向かいたいですね」

 その際に大事なのが“態度”である。

「気を引き締め迅速に、捜査官目線で厳しく冷酷に臨むことです。一瞬、処分に迷うモノも『ずっと邪魔だと思ってたよね?』と自分に問うて、きっぱりと捨てる。本棚やクローゼットなど大物と対峙するときは、尊大かつ横柄な態度で接してほしいですね。僕もね、20万円もする洋書を処分したことがあるんです。躊躇しましたが、なくなるとスッキリ。思い出を引っ張らないのは大事だなと思いましたね」

 思い切った処分は必要だが、今はやりの断捨離やミニマリストを推奨しているわけではない。

「ホテルみたいに何もないところなんて味気ないじゃない。やっぱり気に入ったものは残すし、それが生活でしょう? 僕はモンブランの万年筆が大好きで、使わないものも含め大事にとってありますよ。片づけは自分が快適で健康に生きるために行うものだから、奇麗な状態を目的にしてはいけないんです。ジジイの自覚はなくとも、60歳を過ぎたら体力は下り坂。元気なうちに、健康から安心まで、いいことづくめの片づけを習慣にすべし、ですよ」

 片づけをめぐる妻との攻防戦、谷川俊太郎氏ら友人たちとのエピソードも楽しい。

(集英社クリエイティブ 1600円+税)

▽さわの・ひとし 1944年、愛知県生まれ。イラストレーター、エッセイスト、絵本作家。91年、第22回講談社出版文化賞さしえ賞受賞。著書に「鳥のいる空」「さわの文具店」「人生のことはすべて山に学んだ」など多数。

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