著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「ばあさんは15歳」阿川佐和子著

公開日: 更新日:

 主人公は、高校入学直前の内村菜緒。母方の祖母・和を連れて東京タワーにのぼった帰り、降下のエレベーターがヘンな音を立てるのが発端。地上に降りてみたら、なんだかヘンだ。街には電線が多く、さらに空が広がっている。高いビルがないのだ。どういうわけか、56年前、昭和38年にタイムスリップしてしまったというわけ。本書はここから始まる物語だ。

 小説家・阿川佐和子の才能についてはいまさら言うまでもない。坪田譲治文学賞を受賞した「ウメ子」をはじめ、「スープ・オペラ」「婚約のあとで」「正義のセ」など、数々の傑作がある。本書も、そういう傑作群に並ぶ作品といえる。ホントにうまい。

 祖母の和が、将来の祖父と無事に結婚しないと菜緒は生まれてこないことになるから、まず障害を取り除き、2人が結ばれるように奮闘する。さらに、仕出し屋を営む実家で働くせっちゃんが、故郷の水害で命を落とさないようにも知恵を絞らなければならない。未来を知っていると結構大変なのである。そういうドタバタが、秀逸な人物造形とともに軽妙に描かれていく。

 ネタばらしになるので詳しくは書けないがそのタイムスリップをめぐる法則、条件などもあって、これも面白い。1つだけ書いておけば、東京タワー、通天閣など、各地のタワー系がタイムスリップの入り口なのだという。ホントかよ、と楽しくなってくる。

 (中央公論新社 1600円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「マラソン」と「大腸がん」に関連あり? ランナー100人への調査結果が全米で大きな波紋

  2. 2

    巨人FA捕手・甲斐拓也の“存在価値”はますます減少…同僚岸田が侍J選出でジリ貧状態

  3. 3

    高市総裁「首相指名」に漂う不安…自民党内は“厭戦ムード”も燻る火種、飛び交う「怪文書」の中身

  4. 4

    秋季関東大会で横浜高と再戦浮上、27連勝を止めた「今春の1勝」は半年を経てどう作用するか

  5. 5

    「えげつないことも平気で…」“悪の帝国”ドジャースの驚愕すべき強さの秘密

  1. 6

    高市自民、公明からの三行半で早くも本性露呈…「やられたら秒でやり返す」「イキらなきゃ負け」のオラオラ体質

  2. 7

    出来たとしても高市政権は短命…誰も見通せない激動政局の行方を徹底分析(前編)

  3. 8

    佐川宣寿元理財局長のメール開示「遺族と話し合う」…森友文書で加藤財務大臣が明言

  4. 9

    進次郎氏落選もダメージなし? 妻・滝川クリステルが目指した「幸せ家庭生活」と耳にしていた夫の実力

  5. 10

    侍J井端監督 強化試合メンバー発表の裏に「3つの深謀遠慮」…巨人・岡本和真が当選のまさか