著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「バイター」五十嵐貴久著

公開日: 更新日:

 伊豆の沖合の島で、突如としてウイルス感染症が発生する。罹患すると、人の血肉を求める凶暴な存在になる(政府はそれをバイターと命名)厄介な感染症だ。なにしろ死なないのである。銃で心臓を撃ち抜いても、まだ人を襲ってくる。頭部を銃撃しないかぎり、止めることはできない。つまりはゾンビだ。

 このゾンビの弱点は、1メートル先のものも見えないほど視力が弱いことと(ただし、嗅覚と聴覚は異常なほど高まっている)、歩くのが遅いこと。だから音を立てなければ逃げることは不可能ではない。対して、一度捕まったら、力が強大なので、もう逃げることはできない。バイターウイルスに罹患しても、助かる方法はある。潜伏期間を経て昏睡期に入り、一度目覚めたのちにゾンビとなるのだが、救出方法は1つだけ。昏睡中にラザロワクチンを投与することだ。しかしこれも、1割はワクチン投与の段階でショック死し、3割はワクチンの効果もなくバイター化し、助かるのは6割のみ。万全の方法ではない。

 この未曽有の感染症が発生した島から、首相の一人娘を救うために、自衛隊と警察の混成チームが派遣されて、物語が始まっていく。バイターとなる前に救出することは可能なのか。台風が迫り来る島を舞台に、緊迫の救出劇が展開していくのだ。迫力満点のゾンビ小説だ。

(光文社 1600円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾

  2. 2

    マエケンは「田中将大を反面教師に」…巨人とヤクルトを蹴って楽天入りの深層

  3. 3

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  4. 4

    SBI新生銀が「貯金量107兆円」のJAグループマネーにリーチ…農林中金と資本提携し再上場へ

  5. 5

    阿部巨人に大激震! 24歳の次世代正捕手候補がトレード直訴の波紋「若い時間がムダになっちゃう」と吐露

  1. 6

    陰謀論もここまで? 美智子上皇后様をめぐりXで怪しい主張相次ぐ

  2. 7

    白木彩奈は“あの頃のガッキー”にも通じる輝きを放つ

  3. 8

    渋野日向子の今季米ツアー獲得賞金「約6933万円」の衝撃…23試合でトップ10入りたった1回

  4. 9

    12.2保険証全面切り替えで「いったん10割負担」が激増! 血税溶かすマイナトラブル“無間地獄”の愚

  5. 10

    日本相撲協会・八角理事長に聞く 貴景勝はなぜ横綱になれない? 貴乃花の元弟子だから?