西田亮介(東工大准教授・情報社会学者)

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7月×日 あまり知られていないが最近、インターネットや調査報道と関連するジャーナリズムの新しい賞がいくつも新設された。メディアの研究を専門にすることもあって複数の審査にかかわった。主催者に共通するのは、日本のジャーナリズムに新しい風を吹き込みたい、新しい取り組みや書き手を応援したいという熱意だ。マスメディア、ネットメディア、個人から多くの応募があって自然議論や審査にも力が入ったものである。

 今年は東日本大震災から10年という節目の年に当たることもあって、震災や原発事故を改めて振り返る良い仕事が多数刊行された。アジア・パシフィック・イニシアティブ著「福島原発事故10年検証委員会 民間事故調最終報告書」(ディスカヴァー・トゥエンティワン 2750円)はその好例だ。

 危機に直面して、政府が事態と意思決定、政策を記録するのに並行して、多角的な報道が行われ、記録、保存されてはじめて、事後的に振り返って、再分析、提言できるようになる。本書はその重要性を想起させてくれるが、この間の香港での顛末を顧みても決して自明のことではない。

 この間、菅総理や政府高官の会見、ワクチン行政含めた政策は二転三転した。前政権から、公文書隠し、改ざんも相次ぐ。東京では緊急事態宣言とともに、再び飲食店に酒類提供禁止という厳しい「自粛」を「要請」することになる。未曽有にずさんな政策が乱発されることもあって、1年半前から続くコロナ禍の記憶は薄らぎつつある。詳細な報道記録と書き下ろしで補ってくれるのが読売新聞東京本社調査研究本部編「報道記録 新型コロナウイルス感染症」(読売新聞東京本社 2200円)だ。

 決して読んで愉快な本ではないが、不安や怒りで右往左往するくらいなら、確度の高い情報で振り返って、自分のアタマでしっかり考えるべきだ。改めて表現の自由、ジャーナリズムの重要性が身に沁みる。

 果たして、コロナ収束後、そして10年後の日本は政府の公式発表のみならずコロナ禍を多角的で多元的な総括できるような国だろうか。

【連載】週間読書日記

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