坂爪真吾(一般社団法人 ホワイトハンズ代表理事)

公開日: 更新日:

6月×日 久しぶりに出張の仕事が入り、移動中の機内で読む本として、奥田祥子さんの新刊「捨てられる男たち 劣化した『男社会』の裏で起きていること」(SBクリエイティブ 990円)を買った。

 奥田さんの本の特徴は、市井の人に対する長期間=10~20年近くにわたるインタビューを基に書かれている点だ。類書がなく、読み応えしかない。

 今回の新刊のテーマは「男性によるハラスメント」である。セクハラ、パワハラ、モラハラなど、男性によるハラスメントに関する報道や事件は、連日のようにメディアやSNSをにぎわせている。

 こうした中で、「ハラスメント疲れ」とでもいうべき状態になっている中高年男性も増えている。

「確かにハラスメントはダメに決まっているけど、なんでもかんでもハラスメントというレッテルを張って問題化すること自体が問題なのでは」と疑問を抱く人も多いだろう。

「捨てられる男たち」というタイトルや、「男たちが陥る無自覚パワハラ」というコピーを見て、ハラスメント疲れの男性諸氏は、「もう読む気がしない」「読まなくても内容が分かる」と思われたかもしれない。

 しかし、本書はそうした単純な男性批判本ではない。本書には、世間一般にイメージされるような、旧態依然とした男社会の価値観を振りかざす「無自覚」なパワハラ男性、モラハラ男性はほとんど出てこない。

 逆に、自らが組織の中で働き方改革やハラスメント防止の旗振り役になっている男性たちが多数登場する。

 ハラスメントをなくすための取り組みをしている男性が、なぜハラスメントをしてしまうのか。女性の権利やジェンダーの問題に理解があり、男社会の問題に「自覚的」な男性たちが、なぜ「加害者」として訴えられてしまうのか。

 ここに、社会課題としてのハラスメントを考えるために、本当に必要な論点が隠れている。ハラスメント疲れの中高年男性にこそ、ぜひ読んでほしい1冊である。

【連載】週間読書日記

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    高画質は必要ない? 民放各社が撤退検討と報じられた「BS4K」はなぜ失敗したのですか?

  2. 2

    大手家電量販店の創業家がトップに君臨する功罪…ビック、ノジマに続きヨドバシも下請法違反

  3. 3

    落合監督は投手起用に一切ノータッチ。全面的に任せられたオレはやりがいと緊張感があった

  4. 4

    自民党総裁選の“本命”小泉進次郎氏に「不出馬説」が流れた背景

  5. 5

    「二股不倫」永野芽郁の“第3の男”か? 坂口健太郎の業界評…さらに「別の男」が出てくる可能性は

  1. 6

    今思えばあの時から…落合博満さんが“秘密主義”になったワケ

  2. 7

    世界陸上「前髪あり」今田美桜にファンがうなる 「中森明菜の若かりし頃を彷彿」の相似性

  3. 8

    三谷幸喜がスポーツ強豪校だった世田谷学園を選んだワケ 4年前に理系コースを新設した進学校

  4. 9

    広陵暴力問題の闇…名門大学の推薦取り消し相次ぎ、中井監督の母校・大商大が「落ち穂拾い」

  5. 10

    佐々木朗希いったい何様? ロッテ球団スタッフ3人引き抜きメジャー帯同の波紋