鹿島茂(仏文学者)

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6月×日 主宰している無料閲覧サイト「ALL REVIEWS」の「友の会」はゲストや著者を招いて1冊の本について徹底討議するユーチューブ書評番組「月刊ALL REVIEWS」を月に2度配信しているのだが、私はこのうち「ノンフィクション」部門を担当している(「フィクション」部門は豊崎由美さん)。これがけっこう大変なのだ。というのも、ここのところ、ブルデュー、マルクス、デリダ、ドゥルーズなどに関係した思想系の本を取り上げることが多くなったので、書評対象本のほか思想家の著作まで読まなければならないからだ。

 たとえば、5月はドゥルーズ研究者の千葉雅也さんの「勉強の哲学 来たるべきバカのために 増補版」(文藝春秋 770円)を取り上げたが、この本を正しく理解するには千葉さんの主著「動きすぎてはいけない ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学」のほか、ドゥルーズの「差異と反復」「ザッヘル=マゾッホ紹介 冷淡なものと残酷なもの」「アンチ・オイディプス」(以上、河出文庫)まで全部読まざるをえなくなった。「勉強の哲学」は、ドゥルーズの方法論が応用されているからだ。

 フランス現代思想を読むのはじつに40年ぶりなのだが、なんと驚いたことにこれがいちいち「腑に落ちる」のである。フーコー、デリダ、ドゥルーズらが立てようとした問題とは結局のところ「考えるとは何だろう?」であり、それを解くために難解な用語と文体を創りださざるをえなかったと理解できるからだ。

 かくて「七十にして哲学再入門」。ボケ防止には最高の脳髄トレーニングであるが、この脳髄トレーニングに最適なのが太刀川英輔著「進化思考」(海士の風 3300円)。

 人間の思考は生命の進化と同じ構造を持ち、変異と適応によって創造性を進化させてきたという観点から、思考そのもののプロセスを解明しようとする意欲作。ドゥルーズやデリダを応用した教育学の本としてもビジネス書としても読めるという独創的な1冊である。

【連載】週間読書日記

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