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「ネット企業はなぜ免責されるのか」ジェフ・コセフ著 小田嶋由美子訳 長島光一監修

 グーグル、アップル、フェイスブックにアマゾン。いずれ劣らぬネット時代の覇者。その問題は単に市場の寡占だけではない。



 GAFAに代表されるテック企業。その中でもフェイスブックをはじめとするSNSは、独裁政権を倒すほどの威力を発揮する。逆にアメリカでは政治分極化や社会的分断といわれる対立状況をつくり出した一因がSNSにあることも明らかだ。トランプなど大統領であるにもかかわらず、誰かれかまわず罵倒とフェイク呼ばわりで分断を深めてしまった。SNSは、もはや誹謗中傷のメディアなのだ。

 では、なぜそんなことになったのか。本書は実はSNSに先立って90年代に制定された「通信品位法230条」をめぐる制度の過誤に鋭く迫った法律論。同法は1996年に成立した段階では、主として性的な側面を念頭に「品位を欠いた投稿」にはプロバイダーやプラットフォーム企業が自主規制するように促す目的だった。

 ところが翌年の裁判で投稿者の「言論の自由」を支持する判決が出ると、企業は何が書かれても知らん顔で放置したほうがむしろいいという前例になってしまったという。これでネットにユートピアを夢見た初期の理想は崩れ、SNSを罵詈雑言のゴミの山にする素地ができてしまったのだ。著者は海軍士官学校でサイバーセキュリティーを教える准教授。難解な学術書ではなく、ノンフィクションとしても読めるのが魅力。

(みすず書房 5720円)

「GAFAM VS.中国Big4」大西康之著

 GAFAにマイクロソフトをくわえてGAFAM(ガファム)。5社ともが米企業とくれば、当然黙ってないのが“新冷戦”の片方の主役・中国。そこでは「百度」(バイドゥ)、「アリババ」「テンセント」の通称「BAT」に、いまでは世界中で人気の動画アプリ「ティックトック」で知られる「バイトダンス」を加えた4社が「ビッグ4」といわれるようになった。本書はこのネット上の米中新冷戦を解説する元日経新聞記者のドキュメント。

 もともとデジタル産業は、カウンターカルチャーの思想と新自由主義の経済思想が野合したところに育ったが、中国ビッグ4の特徴は、欧米のマーケットで育った中国新興企業がここにきて突如、共産党の締め付けのもとにかき集められているところ。習近平も「デジタル経済大国」とブチ上げて野心をむき出しにした。もとは「文藝春秋」連載をまとめたものなので、“いまさら聞けない”派の中高年ビジネスマンにも手に取りやすさが魅力だ。

(文藝春秋 1650円)

「ボイステック革命」緒方憲太郎著

 GAFAの支配が進めば進むほど「次は?」となるのも人情。フェイスブックは文字、ユーチューブが動画、インスタが写真とくれば次は「音」という連想も自然だろう。本書はその「次」に懸けて起業した「ボイシー」代表取締役CEOによる“音革命宣言”だ。

 音のSNSといえば知られるのが「クラブハウス」。既にメンバーになった人からの招待か、待ちリストに登録してやっと入れるというのが「面倒くさい」とも「珍しくてイケてる」ともいわれたクラブハウスだが、「ボイシー」は芸能人らを人気DJにした“音によるネットラジオ”や“音ニュースアプリ”のイメージだろう。

 本書では自社の宣伝より、SNS上の音声市場の可能性に真面目に迫ったプレゼン風の解説が主体。ぜひとも日本発SNSでGAFAの支配に風穴をあけてほしいものだ。

(日本経済新聞出版 1980円)

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