「偽装診療」 仙川環著

公開日: 更新日:

 外国人労働者の健康保険の「ただ乗り」問題というのがある。観光などを目的にする者を除いて日本で就労する外国人には健康保険が適用される。しかし、1年未満の滞在で保険料を払うことなく、治療を受けてすぐ自国に戻ってしまうというのが「ただ乗り」だ。本書はこの問題に鋭く切り込む。

【あらすじ】宇賀神晃は曙医科大付属病院の内科医だったが、同病院研究費不正受給を告発し上層部の怒りを買ったため大学を辞め、現在は新宿区百人町にある淀橋診療所の雇われ院長を務めている。病院オーナーから、先月受診した外国人患者が偽装して手に入れた保険証を使い、本来は高額の医療費を安く受けている疑いがあるから、宇賀神に確かめるように言ってきた。

 李という中国人のアパートに行くが当人には会えず、帰り際、巨漢で腕に刺青を入れた男に襲われる。実は李以前にも、通訳の中国人女性と一緒に宇賀神の病院を訪れた台湾人の患者がおり、いきなりC型肝炎の検査をして欲しいというのだ。おかしいとは思いつつも検査をすると陽性で、専門病院を紹介した。李も同じだった。この背後には何かあると思った宇賀神は、新聞記者の新郷美雪らの助けを借りて調べ始める。

 そこへ子宮筋腫の手術を受けた中国人女性が失踪したと訴えるベトナム人男性が現れ、さらにこの偽装を仕組んだと思われる日本人ブローカーが殺されてしまう。調べを進めると、10年前に行われたある臓器移植事件が浮上してきた――。

【読みどころ】健康保険の不正使用は断じて許せないと思う宇賀神だが、だましてでも病気を治したいという切実な願いを前に、医療の本質を突きつけられる。アクチュアルな問題に挑んだ医療ミステリー。 <石>

(講談社 704円)

【連載】文庫で読む 医療小説

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    永野芽郁「キャスター」視聴率2ケタ陥落危機、炎上はTBSへ飛び火…韓国人俳優も主演もとんだトバッチリ

  2. 2

    佐々木朗希「スライダー頼み」に限界迫る…ドジャースが見込んだフォークと速球は使い物にならず

  3. 3

    「たばこ吸ってもいいですか」…新規大会主催者・前澤友作氏に問い合わせて一喝された国内男子ツアーの時代錯誤

  4. 4

    永野芽郁「二股不倫」報道でも活動自粛&会見なし“強行突破”作戦の行方…カギを握るのは外資企業か

  5. 5

    周囲にバカにされても…アンガールズ山根が無理にテレビに出たがらない理由

  1. 6

    インドの高校生3人組が電気不要の冷蔵庫を発明! 世界的な環境賞受賞の快挙

  2. 7

    三山凌輝に「1億円結婚詐欺」疑惑…SKY-HIの対応は? お手本は「純烈」メンバーの不祥事案件

  3. 8

    永野芽郁“二股不倫”疑惑「母親」を理由に苦しい釈明…田中圭とベッタリ写真で清純派路線に限界

  4. 9

    佐藤健と「私の夫と結婚して」W主演で小芝風花を心配するSNS…永野芽郁のW不倫騒動で“共演者キラー”ぶり再注目

  5. 10

    “マジシャン”佐々木朗希がド軍ナインから見放される日…「自己チュー」再発には要注意