島田裕巳(宗教学者・文筆家)

公開日: 更新日:

12月×日 学校で勉強していた時代、「世界史」という科目が苦手だった。固有名詞を覚えるのが面倒だということもあったのだろう、大学の入試でも「世界史」は選択しなかった。受験勉強というのは意外と後になって役に立つもので、そこでそれぞれの科目の基礎が身につく。逆に受験の際に勉強しなかった科目は大人になっても分かっていない。そんなことがある。

 ただ、関心というものは年とともに変わってくるもので、最近では世界の歴史について書いた本を読むことが多くなった。そのなかに阿部拓児著「アケメネス朝ペルシア」(中央公論新社 968円)がある。副題に「史上初の世界帝国」とあるが、アケメネス朝ペルシアはイラン高原からはじまった世界帝国で、前5世紀初頭には、西はマケドニアやエジプト、東はインダス川にまで版図を広げた。ただ、帝国としての寿命は短く220年間しか続かなかった。

 世界史は帝国の歴史でもある。多くの帝国が生まれ、それぞれが版図を広げていったわけだが、広がりきったところで衰退への道を歩み、アケメネス朝ペルシアがそうであったように消え去っていく。帝国とは随分と不思議な存在だ。

12月×日 世界帝国の代表と言えば、ローマ帝国になる。それについて目下、本村凌二著「地中海世界とローマ帝国」(講談社 1496円)を読んでいる。

 ローマ帝国はもともと多神教の世界だが、そこにはキリスト教が広がり、やがて帝国はキリスト教を国教にしていく。広大な帝国を統合するには、キリスト教という宗教の力が必要だったのかもしれないが、すべての帝国が1つの宗教によってまとまるわけではない。

 アケメネス朝ペルシアにしても、ゾロアスター教がどの程度その統合に貢献したのか。ローマ帝国におけるキリスト教ほどではないのは確かだ。いつか「帝国と宗教」という本を書いてみたいと考えるようになってきたのだが、そのために読むべき本はあまりに多い。

【連載】週間読書日記

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    日本球界今オフを襲うポスティング地獄…“予備軍”もゴロゴロ、空洞化ますます加速

    日本球界今オフを襲うポスティング地獄…“予備軍”もゴロゴロ、空洞化ますます加速

  2. 2
    佐々木朗希とのただならぬ関係…陰で糸引く「黒幕」は大船渡高時代の韓国遠征まで追いかけた

    佐々木朗希とのただならぬ関係…陰で糸引く「黒幕」は大船渡高時代の韓国遠征まで追いかけた

  3. 3
    ついに国民年金65歳まで納付案が…政府がヒタ隠す「年金積立金250兆円」という都合の悪い真実

    ついに国民年金65歳まで納付案が…政府がヒタ隠す「年金積立金250兆円」という都合の悪い真実

  4. 4
    キムタクを縛り続ける《公称176cm》のデータ…「Believe」番宣行脚でも視聴者の関心は共演者との身長比較

    キムタクを縛り続ける《公称176cm》のデータ…「Believe」番宣行脚でも視聴者の関心は共演者との身長比較

  5. 5
    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗

    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗

  1. 6
    「白鵬の弟子」押し付け合い勃発! あちこちから聞こえる師匠譲りの不穏な評判

    「白鵬の弟子」押し付け合い勃発! あちこちから聞こえる師匠譲りの不穏な評判

  2. 7
    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  3. 8
    キムタク主演ドラマがまさかの1ケタ…“考察”慣れしすぎて王道スポ根が楽しめない?

    キムタク主演ドラマがまさかの1ケタ…“考察”慣れしすぎて王道スポ根が楽しめない?

  4. 9
    全国紙が全国紙でなくなる?「新聞販売店」倒産急増の背景…発行部数の激減、人手不足も一因に

    全国紙が全国紙でなくなる?「新聞販売店」倒産急増の背景…発行部数の激減、人手不足も一因に

  5. 10
    大谷は徹底した個人主義、思考回路も米国人…ゴジラ松井とはメンタリティーに決定的差異

    大谷は徹底した個人主義、思考回路も米国人…ゴジラ松井とはメンタリティーに決定的差異