川瀬七緒(作家)

公開日: 更新日:

11月×日 新型ウィルスが猛威をふるっていた8月。連日、絶望的な感染者数が伝えられているさなか、私はブライアン・インズ著「世界の幽霊出現録」(大島聡子訳 日経ナショナルジオグラフィック社 2420円)を手に取っていた。コロナ禍を舞台に土着的な話を書き終えた直後だったこともあり、さらなる精神負荷を欲していたのかもしれない。

 この本は19世紀以前から現代まで、幽霊出現の記録とその考察がまとめられている。古い記録から順を追って読んでいくことで、幽霊が時代背景や文化などに引きずられながら変化を遂げていることがよくわかる構成だ。

 19世紀以前の幽霊はもっぱら男性であり、白い布をかぶった伝統的な姿が多い。時代が進むにつれて女性の幽霊が多くなっていくのは、社会進出や市民権が大きく関係しているからだろう。

 すでにおわかりかと思うが、本書は人をゾッとさせるためのホラー作品ではない。幽霊出現の記録から当時を窺い知るという、民俗的な意味合いが大きいのである。

 特に印象に残っているのは、霊現象が起こるときその中心には必ず「思春期の少女」がいるという考察だ。物が宙に浮いたり壁を叩く音が聞こえたり、またはおぞましい声が聞こえたりするとき、「少女」という共通の条件が見受けられる。

 果たしてこれらがすべて少女による自作自演なのか、それとも不安定な年頃にのみ発生する特殊な能力のなせる技なのか。このあたりは読者の想像や知見にゆだねられるわけだが、幽霊出現の答えのひとつが人の恨み辛みや未練などではなく「少女」というのが非常に興味深い。

 本書は幽霊出現の記録がメインということもあり、考察がいささか少ないと感じるのが正直なところだ。しかし記録からさまざまな統計を取り、根拠を示しつつ幽霊の存在に言及するところが新鮮でおもしろいことは変わらない。個人的には、幽霊出現記録がなぜイギリスで突出しているのか。このあたりの検証をぜひ読んでみたい。

【連載】週間読書日記

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース「佐々木朗希放出」に現実味…2年連続サイ・ヤング賞左腕スクーバル獲得のトレード要員へ

  2. 2

    国分太一問題で日テレの「城島&松岡に謝罪」に関係者が抱いた“違和感”

  3. 3

    ギャラから解析する“TOKIOの絆” 国分太一コンプラ違反疑惑に松岡昌宏も城島茂も「共闘」

  4. 4

    片山さつき財務相の居直り開催を逆手に…高市首相「大臣規範」見直しで“パーティー解禁”の支離滅裂

  5. 5

    ドジャース佐々木朗希の心の瑕疵…大谷翔平が警鐘「安全に、安全にいってたら伸びるものも伸びない」

  1. 6

    小林薫&玉置浩二による唯一無二のハーモニー

  2. 7

    森田望智は苦節15年の苦労人 “ワキ毛の女王”経てブレーク…アラサーで「朝ドラ女優」抜擢のワケ

  3. 8

    臨時国会きょう閉会…維新「改革のセンターピン」定数削減頓挫、連立の“絶対条件”総崩れで手柄ゼロ

  4. 9

    阪神・佐藤輝明をドジャースが「囲い込み」か…山本由伸や朗希と関係深い広告代理店の影も見え隠れ

  5. 10

    阪神・才木浩人が今オフメジャー行きに球団「NO」で…佐藤輝明の来オフ米挑戦に大きな暗雲