「ソ連を崩壊させた男、エリツィン」下斗米伸夫著

公開日: 更新日:

 1991年12月26日、社会主義の超大国ソ連が消滅し、ボリス・エリツィンを大統領とするロシア連邦が誕生した。あのとき、何が起きていたのか。ソ連・ロシア政治の研究者が、同時代人の回想録などの新たな史料をもとに激動の時代の真相に迫った歴史ノンフィクション。

 ソ連崩壊の背景は複雑を極める。共産主義と民主主義、ソ連とロシア、イデオロギーとアイデンティティー。さまざまな対立を内包する超大国で、脱ソ連を目指すロシア民主勢力や分離主義的な共和国勢力が台頭し、やがて共和国のひとつだったロシアとソ連の位置が逆転する。そのキーマンがエリツィンだった。

 エリツィンは1931年、ウラル地方の村で生まれた。村には土着的なロシアが残っていた。エリツィンはウラル工大建築学部で学び、州党委員会の建設部門で働いた後、政治的野心を持ってモスクワに行き、頭角を現していく。

 エリツィンとゴルバチョフは同年生まれ。独断専行型のポピュリストのエリツィンと、知的な優等生ゴルバチョフ。そんな正反対のイメージがある2人の政治家の運命は、やがてソ連崩壊という歴史の回り舞台で交錯することになった。

 ソ連大統領ゴルバチョフは改革を目指してペレストロイカを主導したが、それに反対するソ連共産党守旧派がモスクワでクーデターを起こす。

 クーデターに立ち向かったエリツィンは、戦車の上で拳を突き上げ、民衆にアピール。クーデターは挫折し、ソ連共産党への信頼は失墜、解散に至ってしまう。

 その結果、ロシア連邦の最高権力者となったエリツィンはロシア再生に乗り出すが、市場導入による混乱や格差の拡大を招き、オリガルヒ(新興寡頭支配層)の跋扈を許すなど、次第に支持を失っていく。99年に大統領を辞任したとき、誰の意見も聞かずに後継者に指名したのは無名のプーチンだった。そして、ロシアは今に至る。

(作品社 2860円)

【連載】ノンフィクションが面白い

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希に向けられる“疑いの目”…逃げ癖ついたロッテ時代はチーム内で信頼されず

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    注目集まる「キャスター」後の永野芽郁の俳優人生…テレビ局が起用しづらい「業界内の暗黙ルール」とは

  4. 4

    柳田悠岐の戦線復帰に球団内外で「微妙な温度差」…ソフトBは決して歓迎ムードだけじゃない

  5. 5

    女子学院から東大文Ⅲに進んだ膳場貴子が“進振り”で医学部を目指したナゾ

  1. 6

    大阪万博“唯一の目玉”水上ショーもはや再開不能…レジオネラ菌が指針値の20倍から約50倍に!

  2. 7

    ローラの「田植え」素足だけでないもう1つのトバッチリ…“パソナ案件”ジローラモと同列扱いに

  3. 8

    ヤクルト高津監督「途中休養Xデー」が話題だが…球団関係者から聞こえる「意外な展望」

  4. 9

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも

  5. 10

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?