「ジョン・レノン最後の3日間」ジェイムズ・パタースン著 加藤智子訳

公開日: 更新日:

 1980年12月6日。ハワイで警備員をしていたマーク・チャップマンは、ニューヨークのラガーディア空港に降り立った。銃の入ったスーツケースを持ってタクシーに乗り込み、マンハッタンに向かった。ジョン・レノンを撃つために。

 このプロローグの後、時代は1957年に遡り、舞台はハイティーンのジョンがいる英国リバプールに飛ぶ。ジョンは地元で知られた札つきのワルで、ギターをかき鳴らし、歌を歌っていた。

 500ページを超すノンフィクション大作の大半はジョンのドラマチックな生涯を描いているが、その流れを断ち切るように、マーク・チャップマンの言動が挟み込まれる。

 1980年12月7日。マークはコートのポケットに銃を忍ばせて、ジョンが住むダコタ・アパートの正面に立った。ジョンとヨーコの最新アルバム「ダブルファンタジー」にサインをもらいたがっている熱烈なファンの顔をして。

 12月8日。2日間待ったマークにそのときが訪れた。夜遅く、ジョンとヨーコがリムジンで帰ってきた。全身をアドレナリンが駆け巡る。ジョンの背中に向かって、至近距離から発砲した。ジョンの人生と殺人者の3日間、2つの時間の流れが1つの点になって交錯する。

「僕はさっき自分を殺したんだ。僕は、ジョン・レノンだ」。駆けつけた警官は、現場でぺーパーバックの「ライ麦畑でつかまえて」を読みふけっている小太りの男を逮捕した。誰でもない男から、何者かになって、男は満たされていた。マークは法廷で、ジョンを撃った理由を「神からのメッセージを受け取ったからだ」と説明した。

 米国有数のストーリーテラーが、多くの関係者への取材を交えて描いたドキュメンタリーは、ロックを変えた男の物語であると同時に、彼を殺した男の内側に迫ったサイコスリラーでもある。

(祥伝社 2970円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    元横綱・三重ノ海剛司さんは邸宅で毎日のんびりの日々 今の時代の「弟子を育てる」難しさも語る

  2. 2

    巨人・岡本和真を直撃「メジャー挑戦組が“辞退”する中、侍J強化試合になぜ出場?」

  3. 3

    3年連続MVP大谷翔平は来季も打者に軸足…ドジャースが“投手大谷”を制限せざるを得ない複雑事情

  4. 4

    高市政権大ピンチ! 林芳正総務相の「政治とカネ」疑惑が拡大…ナゾの「ポスター維持管理費」が新たな火種に

  5. 5

    自民党・麻生副総裁が高市経済政策に「異論」で波紋…“財政省の守護神”が政権の時限爆弾になる恐れ

  1. 6

    立花孝志容疑者を"担ぎ出した"とやり玉に…中田敦彦、ホリエモン、太田光のスタンスと逃げ腰に批判殺到

  2. 7

    沢口靖子vs天海祐希「アラ還女優」対決…米倉涼子“失脚”でテレ朝が選ぶのは? 

  3. 8

    矢沢永吉&甲斐よしひろ“70代レジェンド”に東京の夜が熱狂!鈴木京香もうっとりの裏で「残る不安」

  4. 9

    【独自】自維連立のキーマン 遠藤敬首相補佐官に企業からの違法な寄付疑惑浮上

  5. 10

    高市政権マッ青! 連立の“急所”維新「藤田ショック」は幕引き不能…橋下徹氏の“連続口撃”が追い打ち