紙上で味わう旅と異国のグルメ本特集

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「香港旅の雑学ノート」山口文憲著

 一時期は収束に向かうかと思われたコロナ禍が、オミクロン株の出現によって再燃。同時にまた気軽に旅行に出かけられる日が遠くなった。ため息が出るばかりだが、今週は気分を少しでも味わえるよう、外国への旅や異国グルメをテーマにした本を特集する。



 かつては身近で手軽な旅行先として親しまれた香港だが、政治的な要因によって今やすっかりその魅力を失いつつある。本書は、まだ香港が猥雑で妖しい魅力を放っていた1979年、現地に住んでいた著者が自らの足と目で得たリアルな香港の姿を紹介するガイド風エッセーの復刻版。

 歴史が浅く、文化・伝統からも断ち切られ、自然とも両立しえない香港。あの騒々しい街だけが混じりっけなしの香港だと、まずは街へと繰り出す。

 すると、通りの上空を埋め尽くす看板のジャングルがいや応なく目に飛び込んでくる。なぜ、こうなったのか、サイズも取り付け方もルールなどなさそうなのに、色彩だけは画一的なのはなぜかなど、考察していく。

 他にも、パジャマで街中を歩き回る人々などの人間図鑑から、風俗事情、露店での買い食いや、ヘビやイヌの食べ方など。豊富なイラストや写真も添えられ、往年の香港の空気を伝える。

(河出書房新社 2002円)

「アジアのある場所」下川裕治著

 アジアや沖縄の人が営む店、そんな「アジアのある場所」が自分の居場所という旅行作家のエッセー集。店の片隅に座り、安穏とした時間に包まれながら、ふと脳裏に湧いてくるアジアや沖縄の旅、そこで出会った人々との思い出をつづる。

 幼い頃から夕立が好きで、タイを中心とした東南アジアに通う理由のひとつは「スコールがあるから」。タイで出合った忘れられないスコールのシーンがふたつある。後年、そのスコールについて記したフリーペーパーのエッセーを読んでタイで働き始めたという日本人たちと出会う。

 他にも、30年前に常磐線・荒川沖駅近くに出現した「リトルバンコク」に出入りする不法就労のタイ人たちとの交流や、一時期通い詰めた沖縄の公設市場とそこで出会ったオバア、さらにミャンマー出身の在日ラカイン人の若者たちによる寿司屋の独立開業の手伝いなど。ちょっぴり切なく、時にやるせなく、そして温かいアジア、沖縄の人々との交流を記す。

(光文社 1430円)

「おいしいロシア おかわり」シベリカ子著

 ロシア人の夫を持つ著者が自らの体験をつづる異文化堪能コミック。

 サンクトペテルブルクで1年間暮らして日本に戻った2人。たまには本場のピロシキが食べたいと、在日ロシア人が作るピロシキをお取り寄せ。そのおいしさに感動し、名古屋まで作り方を教わりにいく。日本のスーパーで見かけるようになったビーツを使ったサラダ「ヴィネグレッド」、ロシアの夏に欠かせない飲み物「クワス」(ライムギと麦芽を発酵させてつくる微炭酸飲料)、日本のとは種類が違うロシアのそばの実「グレーチャ」(茹でてそのまま食べる)に合わせて作るハンバーグ「カトリェーティ」、二日酔いに効くスープ「ラッソールニク」など。夫との日常で感じる文化の違いを交えながら、ロシア料理とそのレシピを紹介。

 そして再びのサンクトペテルブルク滞在や半年のジョージア暮らしなど、現地での体験や食事情、そしてもちろんレシピも。料理を通して、近くて遠い隣国の魅力を伝える。

(イースト・プレス 1210円)

「味の台湾」焦桐著、川浩二訳

 現代詩人で、台湾の食文化も研究する著者によるエッセー。誰もが日常的に口にする台湾の食べ物に、それらを生んだ歴史と文化、そして自らの人生を重ねて描く。

 いつどこで食べてもうまい「担仔麺(エビと肉そぼろ入り汁麺)」は台南生まれ。担仔は天秤棒を振り担ぐの意で、麺の屋台を担いで街角で売り声を上げていたことからついた名。1895年に洪芋頭という漁師がしけで漁に出られない時期に副業で麺を売り歩いたのが始まりで、小さな一杯の担仔麺は、台湾人の勤勉に努力するという価値観の革新を象徴しているとつづる。

 他にも、取材旅行に同行していたがんで化学療法中の妻が体調を崩し、検査結果を待つ間に宜蘭の夜市で買った「鴨賞(アヒルの薫製)」や、会社員時代に人間関係に悩み一人旅した淡水で食べた「焼酒螺(ウミニナのスパイス炒め)」など、60の料理を詩人ならではの静謐な文章で味わう。

(みすず書房 3300円)

「旅のオチが見つからない」低橋著

 旅で人生を踏み外したという著者が、インドとその周辺の国への旅をつづったコミックエッセー。

 バックパッカーの聖地といわれるインドだが、多くの旅人から、さまざまな情報を聞き、「行きたくねぇ」とずっと思ってきた。しかし、いろいろな国を旅して、そこそこ旅慣れしてきたと自分に言い聞かせ、ついにコルカタに降り立った。

 安宿街を歩いていると、いかにも詐欺だというヤカラがニコニコしながら話しかけてくる。うるさくて、でたらめで、とっつきにくい街にどうもなじめない。どはまりする人もいるというが、自分はダメなようだ。それでも旅は続く。観光地の喧噪から逃れ出かけたカシミール地方をはじめ、西部の砂漠地帯でのキャメルサファリ、最後の秘境と呼ばれるインド北東部、さらにはスリランカ、ネパールやタイでの瞑想修行まで。

 嫌なことや、傷つくこともたくさんあるが、同じように優しくされたり、助けられたりの1年3カ月に及ぶ旅をユーモラスに描く。

(KADOKAWA 1320円)

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