著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「やっかいな食卓」 御木本あかり著

公開日: 更新日:

 義母が1人で暮らしている夫の実家で、不登校ぎみの小学生の息子・旬を連れて同居することになったユキと、その義母・凛子。このふたりの語り手が物語を進行していく。

 こうなると、嫁姑の戦いが始まるのかと思うのは当然。ところが、そういう展開にはならない。少しはあるが、それが本書の主題ではないということだ。では、何か。

 同居家族が増えていくのだ。まずは、10歳の少女・叶。凛子には3人の子がいるが、売れない画家の長男・駆はずいぶん前に事故死している(ちなみにユキの夫は次男)。ところが駆には事実婚の相手がいて、駆の死後は母娘で暮らしていたが、その母親が死去したので、10歳の少女・叶の行き場がなくなって、凛子の家にやってくる。駆の忘れ形見なら引き取るのも凛子、やぶさかではない。この少女・叶が、不登校ぎみの旬の心をほぐしていく過程がなかなかにいいのだが、それは読んでのお楽しみにしておく。

 そうか、凛子の長女・涼がイタリア人の夫と、小さなイタリアンレストランを経営していることも書いておく。長男の忘れ形見を実家に連れてくるのはこの涼だ。

 まだほかにも同居する家族が増えていくのだが、それは書かないでおきたい。ようするに、家族はとても面倒だけれど、しかし楽しいという真実を描く小説なのである。

 本書は69歳の著者のデビュー作だが、とても新人の作品とは思えないほど、うまい。

(小学館 1650円)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    不慮の事故で四肢が完全麻痺…BARBEE BOYSのKONTAが日刊ゲンダイに語っていた歌、家族、うつ病との闘病

  2. 2

    「対外試合禁止期間」に見直しの声があっても、私は気に入っているんです

  3. 3

    箱根駅伝3連覇へ私が「手応え十分」と言える理由…青学大駅伝部の走りに期待して下さい!

  4. 4

    「べらぼう」大河歴代ワースト2位ほぼ確定も…蔦重演じ切った横浜流星には“その後”というジンクスあり

  5. 5

    100均のブロッコリーキーチャームが完売 「ラウール売れ」の愛らしさと審美眼

  1. 6

    「台湾有事」発言から1カ月、中国軍機が空自機にレーダー照射…高市首相の“場当たり”に外交・防衛官僚が苦悶

  2. 7

    高市首相の台湾有事発言は意図的だった? 元経産官僚が1年以上前に指摘「恐ろしい予言」がSNSで話題

  3. 8

    AKB48が紅白で復活!“神7”不動人気の裏で気になる「まゆゆ」の行方…体調は回復したのか?

  4. 9

    大谷翔平も目を丸くした超豪華キャンプ施設の全貌…村上、岡本、今井にブルージェイズ入りのススメ

  5. 10

    高市政権の「極右化」止まらず…維新が参政党に急接近、さらなる右旋回の“ブースト役”に