著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「神楽坂スパイス・ボックス」長月天音著

公開日: 更新日:

 スパイス料理専門店をオープンした姉妹の奮闘の日々を描く連作小説だ。スパイス料理とはいっても、カレー専門店ではない。もちろん、タイのグリーンカレーもあるが、クミンや黒コショウを使った野菜スープから、タジン鍋を使うモロッコ料理まで、盛りだくさんである。

 たとえば、アルザスの料理シュークルートがある。これは、豚肉やソーセージを煮込んだ料理で、使うスパイスは、クミン、ローリエ、クローブ、ジュニパーベリーなど。そういえば、「ソーセージって、お肉といっしょに保存料としてスパイスを腸に詰めた加工品だよね」とのセリフも出てくる。つまり、典型的なスパイス料理だというのである。

 かくて我々にはまだ馴染みのないスパイス料理が次々に登場してきて、どれもがおいしそうだから興趣がつきない。もうひとつは脇にまわる人物がどれも印象深いこと。その代表格は近所の日本そば屋の大将で、カレーのにおいがきつすぎると怒鳴り込んでくるところから付き合いが始まるが、そのうちに姉妹の店「スパイス・ボックス」の馴染みとなり、町内会の仲間を次々に連れて来てはたむろするようになる。

 苦悩する若き整体師がスパイス料理を食べるうちに焦る気持ちを静めていく過程もいいし、いつも荷物の多い女性中学教師も登場シーンは少ないものの強い印象を残している。そういう個性的な客を配して、さあ、スパイス料理専門店の開店である。

 (角川春樹事務所 792円)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希に向けられる“疑いの目”…逃げ癖ついたロッテ時代はチーム内で信頼されず

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    注目集まる「キャスター」後の永野芽郁の俳優人生…テレビ局が起用しづらい「業界内の暗黙ルール」とは

  4. 4

    柳田悠岐の戦線復帰に球団内外で「微妙な温度差」…ソフトBは決して歓迎ムードだけじゃない

  5. 5

    女子学院から東大文Ⅲに進んだ膳場貴子が“進振り”で医学部を目指したナゾ

  1. 6

    大阪万博“唯一の目玉”水上ショーもはや再開不能…レジオネラ菌が指針値の20倍から約50倍に!

  2. 7

    ローラの「田植え」素足だけでないもう1つのトバッチリ…“パソナ案件”ジローラモと同列扱いに

  3. 8

    ヤクルト高津監督「途中休養Xデー」が話題だが…球団関係者から聞こえる「意外な展望」

  4. 9

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも

  5. 10

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?