「狙われた羊」中村敦夫著/講談社文庫

公開日: 更新日:

「狙われた羊」中村敦夫著

 小林よしのりと有田芳生の「統一協会問題の闇」(扶桑社新書)も「小川さゆり 宗教2世」(小学館)も、自民党と一体となったカルト集団を理解するためには大事な新刊である。しかし、私はここであえて、30年前に書かれて緊急文庫化されたこの作品をすすめたい。小説にしたために、いわば動画となって、この不気味なカルトの実態が分かりやすく暴かれた。

 1993年に中村はテレビで統一教会を批判して、この「詐欺団体」から刑事告訴されている。「マインド・コントロールによって信者を無賃労働者に仕立て上げ、カモを見つけては他者の財産を巻き上げる」統一教会を中村は詐欺団体と断定する。

 小説では「敬霊協会」となっている統一教会のえげつなさは、自民党ならぬ「国民保守党」に潜り込んでいる敬霊協会候補の選挙の応援で遺憾なく出ている。

 それは驚くようなもので、夜中の3時ごろに対立候補の名をかたって有権者の家へ電話攻勢をかけるのである。

 厳しい選挙なのでぜひ応援をと依頼するのだが、かけられた方はこんな時間に非常識だと怒る。そして、翌朝、その候補の事務所には抗議の電話が殺到して使えなくなるという。

 保守の候補でも、リベラルだった宇都宮徳馬などが統一教会に批判的だったために、これをやられた。

 さて、信者を脱会させるには人里離れた所に連れて行って孤立させなければならない。

「信者は、団体生活に慣れきっていますから、一人になることを恐れています。しかし、一人にしなければ、自分の力で判断する力や習性が戻りません。なんとしてでも昔の生活の感覚を思い出させるのです」

 100人以上救出した人間が、作中でこう語る。彼は「信者たちは別の星に住む異生物だと考えた方がいい」とも言っている。マインド・コントロールの後遺症は深く、普通に戻るまで、平均すれば1年ぐらいのリハビリが必要なのである。

「統一協会問題の闇」で小林は、同じカルトのオウム真理教を擁護した中沢新一や島田裕巳を批判しているが、中沢がそれをザンゲしたという話は聞いたことがない。学者と称する者たちのいいかげんさもカルトをはびこらせる原因となっているだろう。また、統一教会と自民党の改憲案が酷似していることも、もっともっと問題にされなければならない。 ★★★(選者・佐高信)




最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    3年連続MVP大谷翔平は来季も打者に軸足…ドジャースが“投手大谷”を制限せざるを得ない複雑事情

  2. 2

    自民党・麻生副総裁が高市経済政策に「異論」で波紋…“財政省の守護神”が政権の時限爆弾になる恐れ

  3. 3

    立花孝志容疑者を"担ぎ出した"とやり玉に…中田敦彦、ホリエモン、太田光のスタンスと逃げ腰に批判殺到

  4. 4

    最後はホテル勤務…事故死の奥大介さん“辛酸”舐めた引退後

  5. 5

    片山さつき財務相“苦しい”言い訳再び…「把握」しながら「失念」などありえない

  1. 6

    ドジャースからWBC侍J入りは「打者・大谷翔平」のみか…山本由伸は「慎重に検討」、朗希は“余裕なし”

  2. 7

    名古屋主婦殺人事件「最大のナゾ」 26年間に5000人も聴取…なぜ愛知県警は容疑者の女を疑わなかったのか

  3. 8

    阪神異例人事「和田元監督がヘッド就任」の舞台裏…藤川監督はコーチ陣に不満を募らせていた

  4. 9

    高市内閣支持率8割に立憲民主党は打つ手なし…いま解散されたら木っ端みじん

  5. 10

    《もう一度警察に行くしかないのか》若林志穂さん怒り収まらず長渕剛に宣戦布告も識者は“時間の壁”を指摘