「書籍修繕という仕事」ジェヨン著 牧野美加訳

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「書籍修繕という仕事」ジェヨン著 牧野美加訳

 日本では傷んだ書物を修復する人のことを書籍修復士、書籍保存修復士といったりするが、本書の著者は書籍修繕家を自称する。復元ではなく修繕。復元は元通りにすることだが、修繕は「作業後の姿が原本とは一部変わることもあるけれども、その分、開かれた可能性を自由に活かす」ことができる。また修繕という言葉が布や織物を直すときに使われ、本の紙も繊維が絡み合ってできているからだ。

 著者が書籍修繕に初めて接したのは、アメリカの大学図書館付属の「書籍保存研究室」で働いたときだ。ほんの数カ月のアルバイトと思っていたのに、書籍修繕の奥深さに魅せられ、結局3年半そこで働き、ついには帰国してソウル市内に「ジェヨン書籍修繕」という本の修繕専門の作業室を立ち上げる。2018年から3年間で計149冊の修繕に携わってきたが、本書には修繕の過程で巡り合ったさまざまな人や本との思い出がつづられている。

 ある日持ち込まれてきたのは、70年以上は経っているだろう古い日記帳。依頼者の祖母が日本の植民地支配から朝鮮戦争という激動の時代につづった日記だ。破れた箇所に貼られたテープを丁寧に剥がし、よれよれになった紙を整え、新たに見返しを追加して糸を綴(と)じ、破れた部分や欠損しているページを補完し、新たに表紙を付けて丈夫な製本に仕上げる。後日依頼者は、その日記を抱えた入院中の祖母の元気そうな写真を見せてくれたという。

 そのほか、旅先のローマで購入したカポーティの「ティファニーで朝食を」のペーパーバックをエレガントなハードカバーに変身させたり、あるいは子供が愛読するあまりボロボロになった「ハリー・ポッター」シリーズをかつての姿によみがえらせて、子供の誕生日プレゼントにしたいという父親……。

 そんなエピソードを交えながら、古くなった本へ新たな命を吹き込む書籍修繕という仕事の醍醐味を伝えてくれる。 <狸>

(原書房 2200円)

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