グローバル・サウスの光と影

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「インド グローバル・サウスの超大国」近藤正規著

 かつては「開発途上国」と呼ばれたグローバル・サウスが、いまや世界の未来を先導している。

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「インド グローバル・サウスの超大国」近藤正規著

 一体いつのまに? と思う人もいるだろう。遠からず総人口でも中国を抜いて世界一となるとされるインド。英国首相や米国副大統領、グーグル社CEOなどもインド系の人材になっている。その強さの秘密はどこにあるのか。

 本書は政治、経済からカースト制や人口問題、若者層の未来、さらに厳しい経済格差など、インドの強さと弱さをわかりやすく網羅する。名門ガンジー家の「ファミリー政党」とすらいわれる国民会議派が、身分の低いカースト出身のモディ首相の強権の前に手も足も出ない理由も本書でよくわかる。名目GDPでは世界第5位で4位の日本よりも下だが、物価水準を考慮した購買力平価に基づくランキングでは中・米に次いで第3位。総額も4位の日本の倍近くになるのだ。

 中国をも悩ますという少子高齢化問題も、インドではまだ当分先の話。さらに人口大国の強みは豊富な高度人材。初代首相ネール以来の教育拡充策のおかげで世界有数の理系人材の輩出国となった。授業の出席率が75%に満たないと卒業試験を受ける資格がなくなるなど、ユルユル日本とは格段の違いらしい。

 著者はアジア開発銀行、世界銀行でインドを担当し、いまは国際基督教大学で教壇に立つ経済アナリスト。意外な事実が満載の充実した入門書である。 (中央公論新社 1078円)

「ウクライナ侵攻とグローバル・サウス」別府正一郎著

「ウクライナ侵攻とグローバル・サウス」別府正一郎著

 ロシアのウクライナ侵攻は言語道断の暴挙。しかし世界を見回すと、この見方は実は西側諸国に偏る。アフリカやアジアのグローバル・サウス諸国が、公然とロシア寄りとまではいかなくとも傍観姿勢に終始し、国際社会による制裁などが功を奏さない状態になっているのだ。

 2022年3月、ロシアに対してウクライナ領からの即時撤退を求める決議案の採択がおこなわれた。ロシアは国連の常任理事国だから安保理の決議が無理なのは明白だが、国連総会でも35カ国が棄権に回り、国際法の根本原則を確認することさえできなかったのである。一体なぜそんなことになるのか。

 本書の著者はNHK「キャッチ!世界のトップニュース」のキャスター。世界各地の紛争地帯を取材した経験をもとに、わかりやすく解説してくれている。 (集英社 1078円)

「デオナールアジア 最大最古のごみ山」ソーミャ・ロイ著、山田美明訳

「デオナールアジア 最大最古のごみ山」ソーミャ・ロイ著、山田美明訳

 かつて「ボンベイ」と呼ばれたムンバイはインド第2の大都市。

 その街で起業家のための資金援助のNPOを運営する著者は、融資希望者のなかのある集団に気づく。市の端にあるデオナールのごみ集積場で何かしら金目になるクズを拾い集め、それを金に換えてその日暮らしでしのぐ貧民たちだ。

 集積場のごみ山はほとんど20階建てのビルに近い高さ。うずたかく積み上がったその量塊こそ、現代の欲望にまみれた資本主義の醜悪なシンボルのようだ。

 それはインドという急成長をとげるグローバル・サウス大国ならではというより、世界中の腐臭を放つ格差経済の真の姿なのではないか。

 デオナールにむらがる貧民たちをルポする著者の目は怒りと悲しみをたたえている。 (柏書房 2860円)

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