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井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

アルスクモノイ(神楽坂)木と紙の匂いが漂う店内に美しく並ぶ「デザイン、アート、古いモノ」

公開日: 更新日:

 神楽坂と江戸川橋の中間。普通のアルミサッシの戸を開けると、木と紙の匂いが漂う、洒落た空間が忽然と現れる。「デザイン、アート、古いモノがもともと好きで、自分が見てきたモノ全部を生かせる--と、本屋にたどり着きました」と、店主の上原麻紀さん(47)が言う。

 渋谷の老舗「古書サンエー」に10年間勤め、2019年9月に独立したそうだが、その前史は大学時代から。サークルの機関紙作りに携わった際、「表紙のデザイン」に興味を持ったのが「デザイン、アート、古いモノ」好きになったそもそものきっかけとか。「そこ? そこから話し始めると、時間いくらあっても足りませ~ん(笑)」。おっしゃるとおり。中略。

 約40平方メートルの店内に入って、まず目に飛び込んできたのは、南インドのタラブックスの絵本「The Night Life of TREES」。日本では「夜の木」の名の翻訳本が知られるが、もとの英語版の新刊だ。「直接仕入れています」って。さすが。

「僕の学校みたいなモノだ」と8時間滞在する人も

 インテリアとして足踏みミシンが収まり、アート、ファッション、デザイン、映画、音楽、建築、工芸、シュールレアリスムなどの本が美しく並ぶ。コーヒーが飲めるカウンターもある。

「2秒で帰る方も、『ここは僕の学校みたいなモノだ』と言って8時間滞在される方もおられます」

 私の場合は、志村ふくみさんのエッセーが連なる場所と、木村伊兵衛、桑原甲子雄らの写真集がかたまった場所で動けなくなったり。

 木箱にてんこ盛りになった懐かしいマッチ箱に見とれていると、「これも見ます?」と上原さんが、はるか昔の缶詰ラベルや菓子の包装紙を見せてくれる。牧野富太郎の校訂による「普通植物図譜」、石版色刷りだという植物図鑑の絵(村越三千男写生画)やら解説文やらも見せてくれる。「え、え、え? あの朝ドラで見た代物ですか?」と私。「明治時代の印刷物が残ってるって、ドキドキしちゃう」と上原さんがにっこりなさり、「“8時間滞在”の人の気持ち、分かる~」と思った。

ウチの推し本

「Knock! Knock!」KAORI TAKAHASHI

 自由な発想や美しい手刷りで知られる南インドのタラブックスが出した、初の日本人作家の絵本。8カ国で翻訳出版されている。

「河出書房新社から『くまさんどこかな?』の名で日本語版も出ていますが、これは元々の英語版。女の子が、なくしたクマのぬいぐるみを捜しにアパートの階段を上がっていくと、いろいろな人やモノに会う。本を左右、上下に開いていく、すごくすてきな仕掛け絵本です」

(タラブックス 3430円)

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