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井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

Wols Books(ヴォルス ブックス)(神保町)「重すぎて立ち読みできない大型本はテーブルでどうぞ」

公開日: 更新日:

「神保町らしからぬ古本屋さんができている」と知人に聞き、やって来たのだが、「らしからぬ」の意味がすぐに分かった。

 外観の目印が、ブルー地に白いロゴの洒落た看板。約40平方メートルの店内は、北欧風の色使いで、実にゆったりしていたからだ。ましてや、ところどころに2、3段の低い本棚が配され、その上がテーブル状になっている。

「欧米では大型本をテーブルに置いて読む本という意味から“コーヒー・テーブル・ブック”と総称するんです。うちはそうした本が多く、立ち読みは重すぎて大変。本や荷物の置き場所に、そのテーブルを使ってくださいと」

 店主の河村慎一郎さんがそうおっしゃり、なるほど。グラフィカルな本の専門店だ。河村さんは老舗古書店に30年勤め、アート分野を担当。2023年7月に独立したそうだ。

 私が陣取ったテーブル付近の棚に目をやると、日本人写真家の写真集がずらり。あるある、東松照明も植田正治も中山岩太も庄司丈太郎も、と小躍りする。近接して、工芸品・クラフト・染色、デザイン、建築の棚。見上げると、「世界美術大全集」などディクショナリー的な本も固まっていた。

写真集、画集、クラフトまで 古書のグラフィカル本専門店

「どの本も、すごくきれいですね」と言うと、「触ると傷んじゃうような、きれいでない状態の本はバックヤードに保管しています」と河村さん。「たとえば」と、レジカウンター奥から茶色い物体数個を抜いてきて、「通販カタログの先駆けです」と見せてくれる。

 うわー。1901年の「シアーズ・ローバック」、1926年の「モンゴメリー・ウォード」、1933年秋冬の「シュピーゲル」……。洋服から家具、銃、電化製品まで、ありとあらゆるものが写真やイラストで示されている。

「今だとパソコン画面にカチッですみますが(笑)、カタログでの買い物は、ページをめくる指先から商品がフィジカルに伝わり、記憶に残りますよね」と河村さん。同感です。それにしても、掲載品の豊かさと、イラストの精密さに舌を巻くばかりだ。

 ほかにも、中世から現在まで、各時代・各国の画集、写真集、カタログなどが多彩に揃っている。

◆千代田区神田神保町3-10-3 松晃ビル1階/℡03.6261.2251/地下鉄各線神保町駅A2出口から徒歩2分/11時~18時半、日曜休み、祝日不定休

ウチらしい本

「BASIC FORMS OF INDUSTRIAL BUILDINGS」
Bernd&Hilla Becher著
Schirmer/Mosel刊古本売値7000円

「ドイツの現代写真は、『ベッヒャー派』と呼ばれる写真家たちが中心ですが、その礎となったのがベルント・ベッヒャー。彼は、妻ヒラと共に50年代から給水塔、ガスタンク、溶鉱炉、石炭窯などをそれぞれ同じ日照の下に写し、『類型学(タイポロジー)』という手法を生み出したんです」

 邦題「産業用建物の基本形態」。2人がモチーフとした全ジャンルがカバーされている。

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