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井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

無用之用(神保町)「何かのときにふと思い出して役に立つような本を置いています」

公開日: 更新日:

 すずらん通りを挟んで、目下工事中の三省堂書店の真向かい。あら?入り口はどこだ。裏側に回って、階段を上がって……。

 ドアを開けると広がっていたのは、60平方メートルのゆったりしたブックカフェ・バーの空間。入ってすぐの本棚で私に視線を向けていたのが、「決定版昭和史」「東京駅と辰野金吾」「実録 満鉄調査部」「ドイツ戦争責任論争」。近代史に強いのだと思いきや、「いえ、そこの棚がたまたまです」と、店主の片山淳之介さん(44)がにっこりした。

「ジャンルじゃなくて、ずっと読んでほしいと思う本を置いています。すぐには役立たないけど、何かのときにふと思い出して役に立つような」

 店名「無用之用」は、デザイナーの妻、稲垣美帆さん(32)がひらめき、考案した。

「老子の言葉です。たまたま仕事上で知っていて」

りんご箱の棚に1つずつのキーワードと関連本が

 片山さんも元々はデザイン畑の出身だが、「神保町で2年間りんご屋をやっていた」って、異色の経歴だ。りんご屋のお客たちに出版社の人が多く、いわく「なんだかいい人たち」だったことが、この店の開店につながった。りんごを配達に行っていた、独立系書店の草分け「Title」の店主・辻山良雄さんに教えを請い、2020年から始動。23年8月に今の場所に移った。

 さすが。ほとんどの棚がりんご箱だ。面陳列多し。独特なのは、各りんご箱に1つずつ、ユニークなキーワードがつき、その関係本が置かれていること。キーワード「晴れ、ときどき猫」の箱に「書こうとしない『かく』教室」、「無邪気さ無くてはエレガンスは成らず」の箱に「言葉というもの」、「手と頭の中で起こること」の箱に「かくれた次元」といったふうに。

「キーワードと、それに合わせた本をお客さんがリストアップしてくれ、僕が本を集めてきています」と片山さん。なので、新刊と古本が混在。ちなみに、片山さん自身が熱愛してきた伊丹十三の著作も点在している。

 コーヒーもビールも飲めて、話もできる席が14席。食べ物の持ち込みが自由なので、弁当やおつまみを持参し、パソコンを広げてここで仕事をする人も多いとか。自由度高くて、超ステキです!

◆千代田区神田神保町1-21-2 一和多ビル2階/地下鉄各線神保町駅A7出口から徒歩3分/14~21時(金・土曜は22時まで)、月・火曜休み

ウチの推し本

「日本万国博覧会記念写真集」日本万国博覧会協会監修

「関西万博がもうすぐですが……今は、世界中の食べ物や風物などの情報をネットですぐに調べられます。でも、1970年の大阪万博のときは、全然違いました。パビリオンは、77カ国のほか、国際機関など計116。見るもの聞くもの全部が“すごい”だったと思うんです。この写真集は、A4判、函(はこ)入り、308ページ。大阪万博のすべてが網羅されています。手に取って、追体験してください」

(1970年、万国博グラフ社刊 古本売値3000円)

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