著者のコラム一覧
増田俊也小説家

1965年、愛知県生まれ。小説家。2012年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一ノンフィクション賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。現在、名古屋芸術大学客員教授として文学や漫画理論の講義を担当。

「エコエコアザラク」(全19巻)古賀新一作

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「エコエコアザラク」(全19巻)古賀新一作

 黒魔術というものを私はこの作品で初めて知った。小学校4年生のときである。

 あの時代、人を呪うといえば藁人形くらいしか知らなかった。不思議な技を使う人間としては近所のしわだらけの老婆が家屋の新築地鎮のときにやってきて、塩を盛って棒を振る、いわゆるおはらいくらいしか思い浮かばなかった。

 ところがこの作品では主人公の黒井ミサは女子中学生だ。

 不気味でアンニュイな空気をまとっているが黒髪の美少女で、笑えばアイドル級のキャラとして人気が出たであろう。しかし笑いはしない。あくまで黒魔術を使う不気味な少女で悪魔と契約している。タロットをやり(多くの日本人がタロットを知ったのはこの作品ではないか)、剣術なども使いこなし、悪人善人問わず気にいらないやつはみんな黒魔術で殺していく。

 美少女をここまで恐怖に振り切った漫画作品は、これまでなかった。大ヒットとなり、週刊少年チャンピオン200万部時代の急先鋒作品のひとつとなっていく。

 背筋が凍る──。

 内容はまさにこの言葉がぴったりであった。

 つのだじろうの「うしろの百太郎」は霊魂が中心のストーリーである。しかし本作品は人間が悪意をもって呪いをかけ、人を不幸におとしめる。つまり恐怖をつかさどる主体は幽霊ではなく生身の人間なのだ。生身の人間の内面の恐ろしさを当時の少年少女はこの作品で知ったのである。

「エコエコアザラク、エコエコザメラク、エコエコケルヌノス、エコエコアラディーア」

 黒井ミサは人を殺しては、この呪文を唱えながら歩き去る。そのときの背中の静かなたたずまいといったら、とても中学生のものとは思えなかった。

 この作品によってさまざまな恐怖作品が派生し、日本の漫画界にホラー作品を多数生んだという意味で、前述の「うしろの百太郎」と並ぶ重要な作品である。

 何度もテレビドラマや映画、画ニメになったのでそれで知った人も多いであろう。実写では1997年に製作された佐伯日菜子主役のものが記憶に新しい。

 思えば海外ではちょうど「キャリー」でスティーブン・キングがデビューした頃である。世界のホラーの夜明けを飾った作品でもあったのだ。

(秋田書店 Kindle版 495円~)

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