著者のコラム一覧
増田俊也小説家

1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が発売中。現在、拓殖大学客員教授。

「めぞん一刻」(新装版全15巻)高橋留美子作

公開日: 更新日:

「めぞん一刻」(新装版全15巻)高橋留美子作

 私たちの高校大学時代、「ビッグコミックスピリッツ」は必読誌であった。「コージ苑」や「気まぐれコンセプト」など時代感覚をからかった4コマも一世を風靡したが、幾つものストーリー漫画も若者文化に影響を与えた。

 何よりスピリッツの名を高めたのは「めぞん一刻」だ。浪人生として上京した五代裕作と、木造アパート一刻館の女性管理人である音無響子の不器用な交流を描くコメディータッチの恋愛漫画だ。連載開始と同時に人気沸騰し、少年サンデーで並行連載の「うる星やつら」とともに高橋留美子の名を天下にとどろかせた。

 何より音無響子のキャラクターがこの作品の人気の秘密である。

 私が高校時代に通い詰めた日活ロマンポルノで定番の未亡人は年増で豊満、巨尻で淫乱で化粧が濃かった。しかし音無響子は25歳と若く、スレンダーで可憐、抱きしめたくなるキャラクターである。女性と話すことさえ苦手でできなかった昭和の若者にとって「響子さんに童貞を奪ってほしい」というのは共通の夢となった。みな「いつかこんなアパートに住んでみたい」と話したものだ。

 ところが私は北海道大学に入学し、2度にわたって似たような状況になったのだ。

 1度目は入学して初めて住んだアパート。1階に家族4人が住み、2階は踊り場とトイレを挟んで個部屋が2つ。私はその2階に住んだのだが、向かいの部屋に2学年上の北大獣医学部の女子学生が住んでいた。

 入居初日、ドキドキしながらういろうを持って(私は名古屋出身)挨拶に行くと、愛媛出身の彼女はなんと部屋に入れてくれた。「この人が僕の響子さんになるんだ」と感激しながら2人で正座して数時間、故郷について話したが何もなし。半年住んだが何もなし。

 引っ越した先のアパートは玄関共同で10人ほどが住むまさに一刻館のような造り。そして建物内に同居する管理人さんは未亡人だった! 40歳くらいで響子さんより15歳ほど上だが、すごい美人だった。私は憧れたが何もなし。その後、私は4年間住んだがもちろん何もなし。私は五代裕作と違って根性なしだったのである。

 しかし私はこの美人の年上女性たちに憧れながら大学時代を過ごした。この2人が、私にとっての音無響子だったのは間違いない。

(小学館 770円)

【連載】名作マンガ 白熱講義

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • BOOKSのアクセスランキング

  1. 1

    日本の課題がわかる「リチウム戦争」アーネスト・シェイダー著/ニューズピックス(選者:佐藤優)

  2. 2

    無謀な戦争の末路(1)イギリスに「東のスターリングラード」と呼ばれた激戦

  3. 3

    皿書店(豪徳寺)「開高健も書いているし、食の本の店にしよう。そんな感じで」1年前にオープン

  4. 4

    「埋もれてきたもうひとつの抑留の真実と、日本政府の冷淡を知ってもらいたい」──「モンゴル抑留 見捨てられた死者たち」井手裕彦氏

  5. 5

    天皇と戦争の世紀(1)岸信介外相の入閣に異を唱えた昭和天皇

  1. 6

    古書 音羽館(西荻窪)「本屋は街の縮図。誰が入ってきても何か引っ掛かる本がある店を」

  2. 7

    「いのち、見つめて」夏川草介、渡辺淳一ほか著|看取りの真意を問いかける傑作医療小説集

  3. 8

    天皇と戦争の世紀(3)無条件降伏の後、日本側が天皇制をどう死守したのか

  4. 9

    まだまだ暑い!酷暑を意識から追い出すミステリー本特集(2)「能面検事の挫折」中山七里著

  5. 10

    よみがえった写真が伝える戦前戦時下の“時代の空気”「AIとカラーでよみがえる戦争の昭和史」別冊宝島編集部編

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    朝ドラ「風、薫る」“シマケン”はブーイングも…Aぇ! Group佐野晶哉には「オファー増」の追い風

  2. 2

    北島三郎(3)「北島ファミリー」の長女・原田悠里が語る御大

  3. 3

    “世界ランク1位”の座を捨てて甲子園へ 享栄・上江滝拓未「将来はプロかバスの運転手」

  4. 4

    バナナマン日村が簡単に復帰できそうにない「もう1つの理由」…レギュラー11本抱える人気者のジレンマ

  5. 5

    りくりゅうペア大逆転金メダルを呼んだ“かかあ天下” 木原龍一はリンク内外で三浦璃来を持ち上げていた

  1. 6

    りくりゅう“ジュニア”に早くも金メダル期待 一般家庭の子にはない「血」と「資金」の強み

  2. 7

    高市政権が国民資産「強奪」計画! 現預金1100兆円を狙い撃ち、放漫財政のツケを庶民のフトコロに押しつけ

  3. 8

    ビートたけし&島田洋七「ほとんどリタイア」の現在地…「おお元気か?」と連絡し酒を酌み交わす

  4. 9

    日本ハムは「レイエス流出阻止」が最優先課題 優勝争い&新庄監督の去就以上に重大なワケ

  5. 10

    警察は田岡邸を没収し、兵庫県や神戸市の持ち物にしたらどうだ