著者のコラム一覧
増田俊也小説家

1965年、愛知県生まれ。小説家。2012年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一ノンフィクション賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。現在、名古屋芸術大学客員教授として文学や漫画理論の講義を担当。

「めぞん一刻」(新装版全15巻)高橋留美子作

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「めぞん一刻」(新装版全15巻)高橋留美子作

 私たちの高校大学時代、「ビッグコミックスピリッツ」は必読誌であった。「コージ苑」や「気まぐれコンセプト」など時代感覚をからかった4コマも一世を風靡したが、幾つものストーリー漫画も若者文化に影響を与えた。

 何よりスピリッツの名を高めたのは「めぞん一刻」だ。浪人生として上京した五代裕作と、木造アパート一刻館の女性管理人である音無響子の不器用な交流を描くコメディータッチの恋愛漫画だ。連載開始と同時に人気沸騰し、少年サンデーで並行連載の「うる星やつら」とともに高橋留美子の名を天下にとどろかせた。

 何より音無響子のキャラクターがこの作品の人気の秘密である。

 私が高校時代に通い詰めた日活ロマンポルノで定番の未亡人は年増で豊満、巨尻で淫乱で化粧が濃かった。しかし音無響子は25歳と若く、スレンダーで可憐、抱きしめたくなるキャラクターである。女性と話すことさえ苦手でできなかった昭和の若者にとって「響子さんに童貞を奪ってほしい」というのは共通の夢となった。みな「いつかこんなアパートに住んでみたい」と話したものだ。

 ところが私は北海道大学に入学し、2度にわたって似たような状況になったのだ。

 1度目は入学して初めて住んだアパート。1階に家族4人が住み、2階は踊り場とトイレを挟んで個部屋が2つ。私はその2階に住んだのだが、向かいの部屋に2学年上の北大獣医学部の女子学生が住んでいた。

 入居初日、ドキドキしながらういろうを持って(私は名古屋出身)挨拶に行くと、愛媛出身の彼女はなんと部屋に入れてくれた。「この人が僕の響子さんになるんだ」と感激しながら2人で正座して数時間、故郷について話したが何もなし。半年住んだが何もなし。

 引っ越した先のアパートは玄関共同で10人ほどが住むまさに一刻館のような造り。そして建物内に同居する管理人さんは未亡人だった! 40歳くらいで響子さんより15歳ほど上だが、すごい美人だった。私は憧れたが何もなし。その後、私は4年間住んだがもちろん何もなし。私は五代裕作と違って根性なしだったのである。

 しかし私はこの美人の年上女性たちに憧れながら大学時代を過ごした。この2人が、私にとっての音無響子だったのは間違いない。

(小学館 770円)

【連載】名作マンガ 白熱講義

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