「ジジイの昭和絵日記」沢野ひとし著
「ジジイの昭和絵日記」沢野ひとし著
著者は1944年、終戦の前年生まれ。両親の仕事の関係で生まれ故郷愛知県から東京・中野、千葉、また中野へと移り住み、戦後復興と共に成長してきた。
小学校の運動会の景品でもらった納豆をこっそり食べたこと、4年間実施されたサマータイムと世間の反発、戦後の引き揚げ者で防空壕に住んでいた転校生マサルの生きるたくましさ。そして景気回復を見込んで東京に出てきたものの、両親の事業が行き詰まり倒産するが、ひとし少年は子どもらしく、日々の遊びや発見に夢中だった様子が、各ページの下に添えられたイラストと共につづられる。
やがて少年は青年になり、社会では60年安保、東京オリンピック、羽田闘争、デモが起こる。直接的には関わりのなかった著者だが、当時の風俗や人々との出会いと個人的なエピソードを交えて時代を活写する。同時に山を歩き、「本の雑誌」に関わり、独立、と張り切って仕事をし、目いっぱい遊んだ姿も浮かび上がってくる。
戦後と共に生きてきた著者がつづる昭和の時代は、底知れぬパワーに満ちていて、懐かしく読む者も多いだろう。政治への関心も、酒もケンカも遊びも皆が真剣だった。著者も時代を面白がった。
この80年、戦争が起こらなかった「平和」の尊さがしみじみ伝わる昭和史。
巻末には「満洲絵日記」も掲載。
(文藝春秋 2255円)