「札幌誕生」門井慶喜著
「札幌誕生」門井慶喜著
幕末から昭和にかけて、極寒の北の大地に新たな近代都市をつくることに挑んだ人がいた。本書は、「札幌」が誕生する過程に立ち会うことになった人々の情熱の物語だ。「家康、江戸を建てる」で、湿地帯を江戸という都につくりかえた家康を描いた著者が、本作ではかつて蝦夷と呼ばれた北海道の地における都市づくりの歴史に挑んだ。
札幌誕生の背景には、ロシアの脅威があった。米も育たず、畑も痩せ、土着の人以外は住む人はいないと言われたものの、先に住んだもの勝ちになりかねない地域だけに居住の実績を先につくり、ロシアの砦とする必要があったのだ。
登場するのは、初代開拓判官として佐賀藩からやって来た島義勇、クラーク博士にあこがれて入学した札幌農学校でキリスト教と出会った内村鑑三、和人が北の大地をつくりかえていく姿を目の当たりにしたアイヌの歌人・バチラー八重子、父から受け継いだ農地を小作人に解放した作家の有島武郎、荒ぶる石狩川の治水に人生を懸けた岡崎文吉の5人。開拓、教育、アイヌ、農地、治水と、それぞれの視点から見た札幌の物語が興味深い。 (河出書房新社 2475円)