「最後の異端者 評伝美輪明宏」平坂純一著/扶桑社(選者:佐高信)
三島由紀夫と表裏の「カッコなんかクソくらえ」
「最後の異端者 評伝美輪明宏」平坂純一著/扶桑社
今年は三島由紀夫生誕100年だが、著者は美輪明宏を「三島由紀夫という大作家と、背中合わせで生きた人」と規定する。カッコよく生きることをめざした三島と、カッコなんかクソくらえの美輪との「背中合わせ」である。
2012年の「紅白歌合戦」で美輪が歌った「ヨイトマケの唄」は、とりわけ若者たちに衝撃を与えた。美輪の性自認は女性だが、幸田文は美輪を「男の強さに女の強さを足した人」と評したという。美輪は自ら作詞・作曲した「従軍慰安婦の唄」も歌う。
西部邁に師事した「右翼の若頭」を自称する著者は、美輪の反戦魂にはあまり触れていない。この本を起点にそれにしびれてもらうために、私が美輪にインタビューした時の応答を紹介しよう。「一番ヤボなのは戦争をすることですね」と問いかけると、長崎での被爆者でもある美輪は即座に返した。
「戦争って言葉をなくせばいいんですよ。『大量殺人』でいいんです」
そして続けた。
「いじめをなくすためにはどうしたらいいか。いじめという言葉をやめて、『恐喝』『暴行』とするんです。いじめっ子という言葉に代えて『犯罪者』と呼びなさい。誰だって犯罪者と呼ばれるのはイヤでしょう。万引という言葉も軽いニュアンスがあるでしょ。『窃盗』『泥棒』でよろしい」
次の断罪も厳しい。
「世界広しといえども、セックスの処理係として女をぞろぞろ第一線に連れて歩いたのは日本の軍隊だけですよ」
一部の連中がそれを隠そうとして、「そんなことはなかった」などと言っているが、美輪は実際に会って話を聞き、友だちになった。
著者が指摘するように美輪は「第2次大戦期の男くささ、質実さ、暗さ」に、貧乏くさくない明るさと女くささを対置した。
三島のもらいたがったノーベル文学賞についてのタンカも胸がすく。
「あんなノーベル賞なんて、何だとお思いになってるの。あれは爆弾つくった人の、罪ほろぼしの賞ですよ。そんな賞もらって何がうれしいんです? 私だったら突き返してやりますよ。人殺しの賞なんて要らねえよ! と」
これには三島も「君は強いねぇ」と苦笑いするばかりだったとか。
私は、三島より、もっともっと美輪を推す。
★★半