「『低度』外国人材 移民焼き畑国家、日本」安田峰俊著/KADOKAWA(選者:中川淳一郎)

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奴隷制度のような外国人技能実習生の実態

「『低度』外国人材 移民焼き畑国家、日本」安田峰俊著/KADOKAWA

 国際協力機構(JICA)が発表したアフリカ4カ国の「ホームタウン」事業が撤回された。移民受け入れ拡大事業だと捉えられ、不安になった人々が4つの市とJICAに対して猛烈に抗議したのである。川口市や蕨市のクルド人居住者を含め、現在の日本は外国人の受け入れ是非を巡り賛成派と反対派の激突が激しい。

 在日外国人に対する関心が過去にないほど高まっている時代になっているが、本書は在日ベトナム人と中国人の生活の実態と、現代の奴隷制度ともいわれる「技能実習制度」の問題点を多数の当事者への取材から深掘りしていく。

 かつてアジア唯一の先進国かつ圧倒的な経済力を誇っていた時代であれば日本は憧れの国だったかもしれない。だが、実際はもはや中国国内の方が稼げるから中国人は減少し、その代わりとしてベトナム人が増えているのだ。本書に登場する外国人は皆が「こんなはずではなかった」という後悔をしているが、それだけ劣悪な3K労働に就かされているのである。

 さすがは「窃盗」を「万引」、「暴力行為・パワハラ」を「かわいがり」、「買春」を「援助交際」「パパ活」とソフトに言い換えるのにだけは長けた国である。何が技能実習生だ。実態を知ると「詐欺渡航3年拘束奴隷過酷強制労働」と思える。

 工場で働く中国人男性は、同僚の中国人技能実習生が無資格でフォークリフトを運転していた際、重さ1~2トン、長さ6~7メートルの鉄鋼を足の上に落とされ、切断も覚悟する事態になるほどの大けがをした。その際の会社の対応が酷い。

〈社長は警察も救急車も呼ばなかった。僕を自家用車に乗せて病院に連れて行ったんだ〉

 しかも、病院では「塗装作業中の事故」「100キロの鉄板が落下した」と虚偽報告をし、労働基準監督署にもさまざまな虚偽の主張を繰り返したという。結果的にこの男性はスマホを駆使して袴田巌さんの冤罪を勝ち取った弁護士にたどり着き、会社から1500万円の損害賠償を勝ち取る。会社としては、安く使い倒そうと思ったら思わぬ反撃をくらい、高い買い物になったという話だ。

 IT慣れした中国人はこのような戦い方ができるものの、母国が中国ほど発展していないベトナム人の場合は、悲惨である。結果、職場から逃げ出し、フェイスブックなどのベトナム人コミュニティーを頼り共同生活をし、中には果物を盗んだりする者もいる。本書はそこに至る技能実習制度の根本的問題に向き合いつつ一人一人の人生を描く。一読を勧める。 ★★★

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