「おいしいアンソロジー ビール 今日もゴクゴク、喉がなる」阿川佐和子他著/大和書房(選者:中川淳一郎)
ビール好きにはたまらない「読む」心地よさ
「おいしいアンソロジー ビール 今日もゴクゴク、喉がなる」阿川佐和子他著
ビールについて44人の文化人が書いたエッセーをあちらこちらからもってきてエイヤッとまとめた一冊である。だから「伊藤晴雨・画家・1882年生まれ・1961年没」なんて著者すら登場するが、各時代のビールに関する考察を当代きっての名文家・文豪らが書いているのは、ビールの歴史を知る上でも実に貴重な資料となっている。
漫画「美味しんぼ」に登場する海原雄山のモデルとなった美食家・北大路魯山人すら登場しているのである。世界各国をめぐる際、カナダで食べたベーコンがウマかったことや、デンマークの「チュボルク」というビールが一番ウマかったことを記すとともに、「ビールは大壜より小壜の方がうまい」という持論をこの旅で改めて確認できたのだという。
〈日本を一歩踏み出すと、どこの国でも全部小壜ばかりです。日本も一日も早く小壜主義にならなければ嘘だと思います〉
発酵食品の専門家・小泉武夫氏は「不味い!」という著書があり、同書ではこれまでに食べてきたマズいものを次々と挙げていくが、本書でもマズいビールが登場する。各地の地ビールのことはおおむね評価しているものの、地ビールは個性を出すにしても限度があり、中にはそれを通り越して異常な風味を持つマズいビールもあるという。
〈ビールにあってはならないジアセチルという成分の異臭や硫化水素臭が強く付いたものもあった。これらの成分がビールに在ると、ビールがとても不快な匂いになるが、その原因はビールを発酵している間に雑菌の混入があったり、酵母が異常発酵したりすることにある〉
これは私もよく分かる。ビールというものは、個性があってはいけない飲み物なのだ。ただただゴクゴクゴクゴク、プハーッ、ウメーッ! で終わればいいのに、地ビールの多くはホップの香りが強過ぎたり、ワインに近い風味だったりする。もう、大メーカー大量醸造ビール万歳、なのだ。本書はそこをよく理解し、あくまでも「普通のビール」が主役である。
他にも内田百閒の時代は、店でビールを1本しか飲めず、給仕がかたくなに2本目を拒否して悶絶するさまはビール好きには首肯しまくりの展開である。遠藤周作が東京の中心部でビールを飲んで、タクシーで1時間ほどの自宅に戻る際ひたすら尿意と闘う話やら、中島らもが意外にもビールが苦手だった話など、ビールが紡ぎあげる平和でのんきな話題が次々と登場するさまが心地よい。 ★★★
(※ただしビール好きに限る)