「『核抑止論』の虚構」豊下楢彦著
「『核抑止論』の虚構」豊下楢彦著
世界情勢が緊迫する中、改めて核を巡る議論について考えるテキスト。
核抑止論は、相手側が核攻撃をしかけてくる場合には、より破壊的な報復核攻撃を加えるという「脅し」をかけることによって攻撃を抑えるという構図。しかし、この脅しが機能するか否かは、こちら側の判断ではなくあくまでも相手側の判断、認識にかかっている。この脅しの信憑性の問題こそが核抑止論の核心に位置づけられてきた。冷戦時代は、相手側に脅しの信憑性を認識させるために核戦力の増強を誇示し合い、さらに脅しのレベルは最終的に理性を喪失した状態=狂気を演ずるまでにエスカレートする。ベトナム戦争時のニクソン大統領は自らこれを“狂人理論”と称した。
核抑止論の本質を解き明かし、「抑止力の強化」しか語りえない伝統的な抑止論の限界を指摘する。 (集英社 1265円)