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井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

本と豆料理 豆千(川口)飲み助店主が提供する絶品豆料理とバランスの良い選書

公開日: 更新日:

 川口駅から続く「本町大通り」に面したビルの中だが、入り口は裏側の細い道から。週末に、小さな案内ボードがぽつんと出る。扉を開けると、本の匂いに豆の香りがふわりと重なる。「本と豆料理 豆千」は、まさしく5坪の隠れ家だ。

「ふと自分の本棚を見たら、食べ物関係ばかりだったんですよ。飲み助だし、豆料理、作るのも食べるのも好きだし」と、店主の笠井隆太さん(47)がカウンター内から笑顔を見せた。

 その昔、出版社志望だったがかなわず、通信系企業に勤めて20年余り。「いつか本に関わる仕事をしたいなー」と、シェア書店「西日暮里BOOK APARTMENT」に1棚借り、自分の本(食の本)を置くと「意外と売れた」。やがて「いずれ、本を読みながらお酒を飲める店を」と、緩やかに思い描くようになった。本屋を開いた人たちにそう話すと、「やりたいなら“今”でしょ」。事業計画書を妻に向けて書いたというのも面白い。

食文化や酒をテーマにした本が約600冊

 と、そこまで聞いて、同行カメラマンが、「開業資金はいかほどで?」と口を挟んだ。そう、世のサラリーマンにとって「店を持つ」副業は憧れの形のひとつ。「都内に比べると、川口は物件がぐんと安く、全部合わせて300万円以下ですね」と答えてくださってありがとうございます。ここは、自宅から自転車で6、7分の場所。会社に副業届を出して、昨年11月にオープンした。

 10段の作り付け本棚3つに、食文化や酒をテーマにした本が約600冊並ぶ。あ、愛読した金井真紀さんの「酒場學校の日々」だ。気になっていた、小田嶋隆著「上を向いてアルコール」だ。いやいや、見たことなかった「世界の豆料理」も手に取る。紹介された料理のおいしそうなこと。おや? 草野心平の「酒味酒菜」、古川緑波「ロッパ食談 完全版」など昭和の食エッセーも盛りだくさん。本屋に大切なのは、お客が「読んだ本」「(手に取るのが初めての)知っていた本」「知らなかった本」のバランス──と、先日ブックディレクター職の人に聞いたが、まさに、である。

 テーブル席とベンチ席など10の椅子席あり。取材終わりに、笠井さんおすすめの「エチゴビール」をいただき、長野産の「くらかけ豆」と特製「チーズ豆せんべい」をつまんだら、これ絶品。笠井さんが痛しかゆしの表情で、「今のところね、売り上げの9割が飲食物なんです」と笑った。

◆川口市本町3-3-16 オーパスホームズ川口101/JR京浜東北線川口駅東口から徒歩6分、埼玉高速鉄道線川口元郷駅2番出口から徒歩12分/金曜午後7~10時、土曜午後3~9時に営業(10月4日は貸し切り営業)

うちの推し本

「ごはんのことばかり100話とちょっと」よしもとばなな著
朝日新聞出版 古本売値900円

「私が特に好きなのは、『豆とイモが好きな息子の誕生日に、姉が豆づくしごはんを作ってくれた。豆と豚肉の煮込みと、そら豆と、さつまいもパイと、豆ごはんだった』とはじまる一話とか。よしもと家の日々のごはんのこと、行きつけの店のこと、ごはんを共にする家族や友人とのこと……。文字どおり100話ちょっとの食エッセーが詰まっていて、共感できるんです」。2013年刊の単行本。

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