さしせまる有事

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「沖縄有事」牧野愛博著

 G7で得意顔の岸田政権だが、露中を排除したことで有事のリスクはむしろ高まったのではないか!?

  ◇  ◇  ◇

「沖縄有事」牧野愛博著

 ロシアの侵略に耐えて頑強に抵抗を続けるウクライナ。その陰にはNATOの力強い支援がある。

 ではアジアはどうか。朝日新聞で外交問題を担当する現役記者の著者は、1年前、G7国のある高官がその前に日本の外務省にロシアのウクライナ侵攻の可能性を強く説いたにもかかわらず、日本の外務官僚たちはまったく信じなかったことを憤慨していたという。

 日本の役人たちは否定する根拠すらないまま、感覚的に「まさかロシアが」と決めつけていたというのだ。要は楽観論だけで事態を軽視し、事が起こって大慌てというニッポン国の悪癖が繰り返されたわけだ。

 同じ発想で戦前の軍部から3.11の際の原発「想定外」事故にまで、何度も痛い目に遭ったはずなのにである。岸田首相は「相手に反撃を思いとどまらせる抑止力」、つまり、反撃能力を持つと豪語したが、「思いとどまる」のは相手の問題。首相の思惑で思いとどまってくれるわけではないのだ。

 日米の「統合抑止力」とは、「アメリカと戦うことは日本と戦うこと」という中国の見方につながる。そのとき実際に戦場になるのは日本なのだ。序文でそう強調する著者は北方領土、台湾そして沖縄と「有事」の可能性を細かく検証する。沖縄の離島では島民保護のための訓練もおこなわれていないお粗末な実態。

 人気マンガ「空母いぶき」などでは首相の英断が有事をぎりぎりで回避させるが、果たして現実の首相に度量はあるのか。

(文藝春秋 1760円)

「日本有事」清水克彦著

「日本有事」清水克彦著

 多くの外交研究者やジャーナリストが口をそろえて「台湾有事も尖閣諸島有事も数年以内に起こり得る」と指摘する。文化放送で長年、政治報道を担当した著者もそのひとり。今日のウクライナは明日の台湾・尖閣というのがその主張だ。

 著者は、中国が台湾へ侵攻して統一を果たそうと実際に動くのは2027年から35年までのどこかだと推測する。27年は中国軍が建軍100周年を迎える年。また35年は中国がすでに世界一の経済大国になって数年というタイミングと考えられるからだ。

 中国は30年にはアメリカを追い抜くだろうという予測は米民主党の議員ですら認めているのだ。

 まさに待ったなしなのが今なのだ。

(集英社インターナショナル 1012円)

「日本は本当に戦争に備えるのですか?」岡野八代、志田陽子ほか著

「日本は本当に戦争に備えるのですか?」岡野八代、志田陽子ほか著

 昨年の年の瀬のあわただしい中、閣議決定という名目でいきなりトップダウンで知らされたのが「安保3文書」。「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」だ。

 この事態を憂慮したのが同志社大の政治学者で本書の筆頭著者の岡野氏。年明けすぐに大学でオンラインセミナーを開催した記録が本書の原型だ。

 メンバーはほかに、民主主義と安全保障の関係を専門とする憲法学者の志田陽子氏、政府のいう「抑止力」構想に反対するフリージャーナリストの布施祐仁氏、東京新聞記者として気を吐く望月衣塑子氏、そしてアメリカ外交史の専門家で同志社大准教授の三牧聖子氏。

 この顔ぶれで論じた「虚構の『有事』と真のリスク」(副題)が本書のテーマだ。「虚構の有事」とは政治家や保守派のコメンテーターらが「台湾有事は日本の有事」と繰り返すことでその可能性が実体化されてゆくこと。要は思い込みがすりこまれて、軍事面以外の手段や選択肢を国民が想像できなくなってゆくのだ。

 それこそまさに政権の思うツボだろう。

(大月書店 1650円)

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