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井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

本と喫茶 夢中飛行(大宮) 「100通りの認知の違いを同じ空間に置いてみたい」との思いからシェア型に

公開日: 更新日:

 JR大宮駅から、氷川神社の方向に歩き、参道の少し手前。変哲もない雑居ビルの2階だが、ドアを開けると、床も棚もウッディーな50平方メートル弱の空間。本棚が幅約60センチに区切られたシェア本屋さんだ。

「ソ連 自動車旅行」を面陳列した横に「胡椒 暴虐の世界史」が並ぶ棚と、「自然治癒力を上げる ドイツ『緑の薬箱』」の隣に松浦弥太郎著「日々の100」を置く棚に目をやりつつ、店主の直井薫子さん、こんにちは。棚主さんは、何人ほどですか?

「約100人です。100人いれば、100通りの“認知”が集まります。なので、認知のギャップを埋めるには、って実験している場なんです」

 むむ。高邁な志のようだが、「認知」うんぬん、難解だなー。開業経緯から教えてください。

「出版社勤務を経て、書籍のデザインの仕事をして……」と話し始めてくれたのは──。

 雑誌制作の現場に違和感を覚えたこと。学術書のデザイン事務所に移り、「本作りの誠実さ」を知ったこと。デザイナーとして独立する頃には、「本の読み手が作り手に影響を与える社会構造」に思いを馳せるように。地元は東浦和。2019年、北浦和で約3000冊の美学や人文書など中心の新刊書店を始動。

 すると、「同じ本を探しているようでも、人それぞれ見ているものが違う=認知のギャップがある」と気付き、「100通りの認知の違いを、同じ空間に置いてみたい」。そんな思いから、この形式が生まれたという。

週末ごとのイベントは棚主たちの自主企画

 棚主は、都内と異なり、出版関係者が少なく、社員や福祉職ら、いわく「市井の人」が多いのが特徴。漫画やエッセー、写真集ばかりの棚もあり面白い。自己承認要求の棚でなさそうだ。

 週末ごとに読書会やイベントが開かれるが、その多くが棚主の自主企画。ほかの棚主も、棚主以外も参加するそうで、自然とインプットとアウトプットしあうことが、先に聞いた「認知のギャップを埋める」につながるのだ、きっと。

 店内をゆっくり回る。幾つもの異なる世界観が平等に並んでいる、と改めて思う。「シュールな笑い」「若者考察」「数学的思考」が好きらしき人の棚に見入っちゃったり。あ、店の奥には直井さんが選んだ新刊も2000冊ほど。コーヒーもいただける。

◆さいたま市大宮区高鼻町1-56 ks'氷川の杜201/京浜東北線・埼京線など大宮駅から徒歩8分/午前11時~午後6時、火・水曜休み+不定休あり(詳細はインスタグラム参照)

ウチの推し本

「野生のしっそう」猪瀬浩平著 ミシマ社 2640円

「コミュニケーションを取るのが難しい自閉症の兄が、コロナ禍に突然失踪するんです。なぜ? どこへ? 兄は世界をどう見ていたのか。どうもがいたのか。弟で文化人類学者の著者が、兄の言葉にならない感覚や社会とのすれ違いを、丁寧にすくい取った一冊。生きづらさを抱える人々の受け止め方、社会のあるべき姿を考えさせられます」

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