水平書館(神保町)文学の香りと社会科学の手触りの両方が並ぶ「7坪部屋」が新たにオープン
去年が30周年。西荻からここ神保町に移ってからでも20年になるが、今も「知る人ぞ知る」的な存在なのは、店主の李明夫さんいわく「ガチガチの社会科学専門」だからだろう。
白山通りに近い小道沿いにある、3階建ての自社ビルの中。「水平書館」は通路と2、3階で営業し、一等地である1階の7坪の部屋を他の古書店に貸していたが、「高齢で閉店され、空いたので、じゃあ私も最後に……やろうかと」。ん? 最後に? 「そう。もう64だし、(職業病で)腰を痛めてるし」とネガティブワードが出たのは、フェイントだったのだと思う。
1月、「ガチガチ」とひと味違う、文学の香りと社会科学の手触りの両方が並ぶ7坪部屋が、新たにオープンした。繰り返すが、30年間の「水平書館」の主客は社会科学の専門家だ。だが一方、東京古書会館で「博物館展示レベルから市井の懐かしい本まで」の内容で開かれる即売市「和洋会古書展」に出展もしてきた。そちらは「古本好きの普通の人」向き。
「若い人に託して和洋会は昨年辞めて……アレをココで再現しようと」
なるほど。店頭のラックに、色川大吉「困民党と自由党」、大内兵衛「河上肇」と並んで、井伏鱒二も田辺聖子もあったわけだ。
店内は、向かって右に文学の香り。左に社会科学の手触り。いずれも「引退された古本屋の先輩方からもらった」というアンティークの本棚に並んでいる。まず、「都電が走った昭和の東京」と荒木経惟「沖縄烈情」、そして佐木隆三、井上ひさし、高橋和巳と目が合う。あっ、埴谷雄高もずっしり、と心にメモっていると、奥の棚から2冊を引いてきた李さんが、「これなんかも見ます?」と達観のほほ笑みで。
アイヌ、沖縄などの関係本から紙資料まで上階はまるで研究室
レズビアン文学の先駆、吉屋信子が大正期に発行していたという個人雑誌「黒薔薇」と、幸徳秋水らと「平民新聞」を創刊した堺利彦の自伝「半生の墓」だった。おおおお。文学と社会科学が混ざり合ってきた! ふと、本棚の上の方を見ると、山川菊栄「女性の反逆」やら石川三四郎「一自由人の放浪記」が。
「ここに来て、上に上がる勇気がある人はどうぞ、って感じですね」と李さん。2、3階にはアイヌ、沖縄、フェミニズム、在日、部落、社会運動の関係本や紙資料が詰まりまくった、まるで研究室なのである。
「長く古本屋を続けられたモチベーションは、“発掘の喜び”ですね」との言葉も刺さった。
◆千代田区神田神保町1-54 神田水平館ビル1~3階/℡03-5577-6399/地下鉄各線神保町駅A5出口から徒歩4分/正午~午後7時、不定休
ウチが出した本
「小さい時間(復刻版)」酒井正平著 水平書館刊 1000円
「反戦詩人と言われる酒井正平は『三田文学』『文藝汎論』などに寄稿していた詩人です。応召され、太平洋戦線へ。そこでも詩作を続けていたんです。1944年にニューギニアで戦死。遺族が1953年に限定300部の私家版の遺稿集を出していたんですね。あるとき、同業の古書交換会で、酒井正平の生原稿を一箱見つけて買った。それをきっかけに、この復刻版を赤字覚悟で出すことを決め、2013年に作りました」


















