野地秩嘉
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野地秩嘉ノンフィクション作家

1957年、東京生まれ。早稲田大学商学部卒。出版社勤務などを経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュや食、芸術、文化など幅広い分野で執筆。著書に「サービスの達人たち」「サービスの天才たち」『キャンティ物語』「ビートルズを呼んだ男」などがある。「TOKYOオリンピック物語」でミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。

<第5回>降旗監督が「もう一度」といった最初で最後のシーンがある

公開日: 更新日:

 高倉健は降旗監督と20本の仕事をしている。彼がもっとも敬愛し、かつ信頼した同志といえる。私自身、「あなたへ」の撮影ロケを見学に行ったが、そこで、高倉、降旗の2人が撮影シーンについて、やりとりする場面を見た。その日、外部の人間で撮影所にいたのは私と編集者の2人だけだった。緊張感が張りつめていて、「この場で携帯電話を鳴らしたら、確実に殺されるな」と感じたものだ。私語する者などひとりもいない。降旗監督が「よーい、スタート」と言った途端、全員、呼吸を止め、高倉健の演技を見守った。

 通常ならば、テスト1回、本番1回が高倉健の出演シーンである。ところが、その時はなぜか降旗監督がOKと言わずに、3度も同じシーンを撮った。高倉さんは「ふむ」と不審そうな顔をしたが、にっこり笑って、「さあ、やろう」と同じ演技を繰り返した。

■セリフ回しよりも「気」の強さ

 私は「鉄道員(ぽっぽや)」からすべての映画現場を見ている。降旗監督が高倉さんに「もう一度、お願いします」と言ったのは、その時が最初で最後だった。

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