“ボサノバの父”とブラジルで共作 伊勢正三さん思い出の1枚

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「なごり雪」「22才の別れ」といった名曲を生み出した歌手の伊勢正三さん(66)。とっておきのワンカットがこれだ。

 ◇  ◇  ◇

 僕の左に写っているのは20世紀のブラジル音楽を牽引して、「ボサノバの父」といわれるピアニストで作曲家、編曲家のアントニオ・カルロス・ジョビンさんです。

 撮影したのは1988年6月28日で、ブラジル・リオデジャネイロのご自宅。巨大なキリスト像が市街を見下ろすコルコバードの丘に近い大きなプールがある広大な邸宅でした。普段はニューヨークで生活されていて、ブラジルではめったに会えません。ましてや僕にとっては音楽の神様だけに、一生の思い出です。

 ジョビンさんといえば「イパネマの娘」をはじめ「おいしい水」「波」などタイトルは知らなくても、その美しいメロディーだけで「ああ、あの曲」とだれもが知ってる楽曲をたくさん創作されました。

 ただ、よくよく聴くと意識的にメロディーライン自体がコードの基本和音から外れた音程で作られているなど、驚くほど斬新で高度な音楽性も持ち合わせています。もともとクラシックの素養のある方で、楽曲全体の品性が素晴らしく、そのあたりが融合して生み出される唯一無二の音楽はとても刺激的。世界中の音楽家で、影響を受けなかった人はいないんじゃないかな。

作詞作曲した曲が「国民ソング」に

 ご自宅へお邪魔することになったのは6月から7月にかけてサンパウロで開催された「エキスポ―日伯80」に招待されたからです。このイベントは日本移民80周年を記念し、森英恵さんのファッションショーや日本の郷土芸能のステージがあり、大トリが僕とジョビンさんの息子・パウロさんをバンマスとする「ジョビン・バンド」の競演ライブ。

 招待された当初はなぜ指名されたのか正直わかりませんでした。「ジョビン・バンド」の86年の日本ツアーの際、その頃住んでいた都内の自宅兼スタジオにメンバーに来ていただいてホームパーティーをしたことがあって、そのご縁かな……と思っていました。

 ところが、現地に行って初めて僕が作詞作曲した「なごり雪」「22才の別れ」が国民ソングのようにカラオケで歌われていることを知り、コンサートで歌うと観客全員が大合唱。ようやく合点がいったものです。

 コンサートではジョビンさん親子が共作し、ジョビンさんが担当されたサビの部分に、僕が日本語の詞をつけて歌うのが目玉企画で、現地の新聞にも大きく取り上げられ話題になっていました。これは恐れ多くもその曲の話になった時の写真だと記憶しています。僕がギターを弾いていたら「ここは、こう押さえるんだよ」とギターの指板に直接触れてコード進行をアドバイスしてくれました。今思い出しても胸が高鳴るひとときです。

 もちろんコンサートの本番で初披露した時の客席の反応は格別。すごく好意的に受け止めていただき充実感のある演奏ができました。

 ジョビンさんは94年に鬼籍に入られましたが、4年後、パウロさんから電話がありました。プロデュースしているボサノバ歌手・小野リサさんの10枚目のアルバム「ボッサ・カリオカ」にその曲を収録したいというんです。もちろんOK。断る理由などありません。

 曲のタイトルは「Maria E Dia(マリア、朝よ)」。小野さんのお気に入りの曲のひとつだそうです。肉体はなくなっても、楽曲、スピリッツは今も継承されています。その一端を担うことができたのは音楽家冥利に尽きますね。

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