著者のコラム一覧
大高宏雄映画ジャーナリスト

1954年浜松市生まれ。明治大学文学部仏文科卒業後、(株)文化通信社に入社。同社特別編集委員、映画ジャーナリストとして、現在に至る。1992年からは独立系を中心とした邦画を賞揚する日プロ大賞(日本映画プロフェッショナル大賞)を発足し、主宰する。著書は「昭和の女優 官能・エロ映画の時代」(鹿砦社)など。

仏映画の巨匠ルネ・クレールが活写する“毒婦”に現代を見る

公開日: 更新日:

 フランス映画の巨匠、ルネ・クレール監督の2本の名画が先週から恵比寿ガーデンシネマ(東京・渋谷区)で公開されている。「巴里祭」(1933年)と「リラの門」(1957年)だ。4Kデジタル・リマスター版の実にクリアな映像で蘇った。監督の生誕120周年記念上映である。

 2本とも素晴らしいが、続けて見るとあることに気がつく。女性描写のいきの良さだ。「巴里祭」なら、一度は別れた男の気持ちを引き留めようとするポーラ・イレリ演じる妖艶な女性。不意に上半身の肌があらわになるシーンにゾクッとする。見る側の刺激度の喚起もさることながら、男が彼女の体に未練があることも示しているのだ。しかも彼女はその気になった男をあっさりと振る。

「リラの門」なら、ダニー・カレルが扮した酒場女がまた威勢がいい。可憐な顔をしながら、酒飲みのさえない主人公の男に思わせぶりなそぶりを見せるが、突如豹変する。薄手のセーター風上衣から突き上げたような胸の膨らみが表情の可憐さを裏切って、男を翻弄する強烈なシンボルのようにも見えた。

 しかもこの2人、犯罪者のワルになびいていくのをきっかけに純情な男を振り切るのだから始末が悪い。ワルに引かれる女性は現代でも結構多いだろう。凡庸さが際立つ男にはない魅力があるのだ。両作品ともに、ワルの大きな魅力のひとつに性的な要素があることも見逃せない。綱渡り人生の単なる危ない男の側面だけが、女性を引きつけるのではない。

 ルネ・クレール監督というと、人情味あふれる古き良きパリを描いた巨匠と思われがちだ。確かにそうだが、けなげなヒロインがいる一方、毒婦のような女性像の描写でも群を抜く。男女関係の奥が深いフランス映画の巨匠たるゆえんだろう。

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    横浜とのFA交渉で引っ掛かった森祇晶監督の冷淡 落合博満さんは非通知着信で「探り」を入れてきた

  2. 2

    複雑なコードとリズムを世に広めた編曲 松任谷正隆の偉業

  3. 3

    中学受験で慶応普通部に進んだ石坂浩二も圧倒された「幼稚舎」組の生意気さ 大学時代に石井ふく子の目にとまる

  4. 4

    ドジャース内野手ベッツのWBC不参加は大谷翔平、佐々木朗希、山本由伸のレギュラーシーズンに追い風

  5. 5

    「年賀状じまい」宣言は失礼になる? SNS《正月早々、気分が悪い》の心理と伝え方の正解

  1. 6

    国宝級イケメンの松村北斗は転校した堀越高校から亜細亜大に進学 仕事と学業の両立をしっかり

  2. 7

    放送100年特集ドラマ「火星の女王」(NHK)はNetflixの向こうを貼るとんでもないSFドラマ

  3. 8

    維新のちょろまかし「国保逃れ」疑惑が早くも炎上急拡大! 地方議会でも糾弾や追及の動き

  4. 9

    出家否定も 新木優子「幸福の科学」カミングアウトの波紋

  5. 10

    【京都府立鴨沂高校】という沢田研二の出身校の歩き方