井筒和幸監督が8年ぶり新作「大人の不良を描きたかった」

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特別インタビュー

 社会から疎外された「寄る辺なき若者たち」を主人公にしてきた井筒監督が、自らの映画人生の集大成としてぶちあげたのが新作「無頼」だ。戦後の焼け野原の中からのし上がってきた一人のやくざを主人公に、昭和から平成にかけての世相、事件を織り込みながら日本の“戦後50年”とは何だったのかを問う「大人の不良」の物語だ。

■無頼漢たちの姿を通して昭和という時代を逆照射

 今まで僕が映画で描いてきたのは、みんな昭和のはみ出し者、あぶれ者たちですよ。デビュー作の「ガキ帝国」をはじめとして「岸和田少年愚連隊」「パッチギ!」など、みんな社会からはじき出されて貧困と差別に対して暴力であらがってきた不良たちだ。今回も同じ。主人公は貧困の中から這い上がり、アウトロー社会でてっぺん目指して駆け上がっていく男だ。

 彼を通して俺なりの昭和史を描こうと思ったわけ。これは昭和という時代のパッチワークであり、自分の映画人生の集大成でもある。

「無頼」という言葉も今では時代遅れになったようで、今の日本社会は権力に忖度し、他人のみこしに乗っかるようなヤツばかりだ。貧困や出自の差別を受けながらも、誰にも頼らず自分の内なる掟に従ってのし上がっていくのが無頼。松っちゃん(EXILEの松本利夫)演じる主人公のやくざはそんな男や。平成なんて空っぽな時代だったじゃないの。荒々しくうごめく無頼漢たちの姿を通して昭和という時代を逆照射したいんだな。いってみれば、「仁義なき戦い」と「ゴッドファーザー」を足して2で割った映画と思ってくれればいい。

「パッチギ!」では差別を描いたけど今は貧困がテーマかな。こんな生き方しかできない連中に、「くじけずに、寄る辺なきこの世界をよくぞ生き抜いたな」と肩を叩いてなだめてやりたかったんだ。

50年近く経っても日本人は変わっちゃいない

 物語の始まりは1956年の神武景気の頃からだ。健忘症の日本人は戦後復興がお隣の国の不幸のおかげだということも知らんみたいだから。その2年前に勃発した朝鮮戦争で日本が戦争特需で沸いていた時期や。売れば金になるアカ(銅板・銅線)を拾ったり盗んだりして身寄りのない主人公は飢えをしのいでいるわけや。僕も当時4歳だから覚えてるわけないけど、日本が隣の国の戦争で金を儲けて息を吹き返したのは皮肉だな。

 60年安保、高度経済成長、オイルショック、日中国交回復、リクルート事件、暴対法……。時代は繰り返すというけど、74年のオイルショックでトイレットペーパーが買い占められた騒動なんて今のコロナ問題でトイレットペーパーがなくなったのと同じデマもいいとこだ。50年近く経っても日本人は変わっちゃいないよな。

■松ちゃんは生真面目な役者だった

 松っちゃんは真面目な俳優だよ。最初は硬かったけど3日もしたら慣れた。たまに「もうこれ以上できません」と泣きごと抜かす役者もいるけど、彼は「監督が納得できなければ何回でもやらせてください」と文句ひとつ言わずついてきた。だから彼にNGはほとんど出してないよ。昔からいる我が井筒組の木下ほうかもいい芝居してるよ。憂国派の活動家役だけど、アナーキーに自由にやりなさいってな(笑い)。

 昭和を生きた傑物たちは思想の左右を問わず、社会を思う肝の据わった「無頼」がたくさんおったってことだ。木下の役もそんな時代の人物たちの集合体にしたんだ。

 映画公開に合わせてミニアルバムを発売するんだけど、映画のメインテーマである泉谷しげるの「春夏秋冬」は本人の強い意向で「無頼バージョン」としてセルフカバーした。今の泉谷の歌がスクリーンによみがえるんだからこれも聴いてほしいな。「季節のない街に生まれ 風のない丘に育ち」ってこの映画のテーマそのものだよ。

 次に作りたい映画もやっぱり「昭和」だな。敗戦直後の混沌とした社会もいいけど、60年安保とか70年安保の騒乱も面白い。東大全共闘と三島由紀夫の討論映画が評判になったけど、全共闘の側から描いた活劇の方が面白い。東大安田講堂の攻防戦なんていってみれば権力との「戦争」だろ。僕の同世代だから題材はいっぱいある。熱い映画になると思うよ。

(取材・文=山田勝仁)

■映画「無頼」は12月、お正月映画として新宿K’s cinemaほか全国で公開予定。出演は松本利夫(EXILE)、柳ゆり菜、中村達也、ラサール石井、小木茂光、升毅、木下ほうかほか。

▽井筒和幸(いづつ・かずゆき) 1952年生まれ。奈良県出身。代表作に「ガキ帝国」(1981年)、「二代目はクリスチャン」(85年)、「のど自慢」(99年)、「パッチギ!」(2005年)など多数。日刊ゲンダイでコラム「怒怒哀楽劇場」連載中。

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